2021年10月06日

物を「もの」と呼ぶか「モノ」と呼ぶか

 前号の本欄で万年筆の話を少しだけした。この万年筆、それこそワンコインで購入できる物から、豪華な装飾を施されていてサインを書くのも躊躇われる代物まである。普段使いの物であってもペン先やインクに拘り、自分にとって気持ち良い仕様になる物を追い求められる。しかも、定期的にメンテナンスすれば、それこそ孫の曾孫の代まで使い続ける事ができる。無論、持つだけで「おぉ〜」と言われる万年筆ブランドも数多くあり、周囲からの注目を浴びるために持つというのもあるだろう。

これと似た嗜好は時計にも当てはまる。最近ではすっかり時計を持つ人は少なくなったが、私は自動巻き腕時計2本と懐中時計1本持っている。しかし、そのどれもが結構な頻度でメンテナンスしなければ購入当時の性能を維持できない反面、万年筆と同様に孫の曾孫まで使い続ける事ができる。また、時計は万年筆以上にアンティーク性・ヴィンテージ性が高く、それこそ家1軒分位の価格の時計が今でも登場している。大半の人はこのメンテナンスを面倒がって、持つとしても電池式時計に行きがちでる。無論、電池式時計にはそれなりの良さがあって、手巻き時計にはない機能を搭載させる事ができる。ただ、高性能時計は発売から10年ほど経過すると部品供給がほぼ完全になくなり、手巻き時計ほどの長期使用ができない。

 時計は時間を計測する機械だから「時計」なのである。これはこれで間違いではないのだが、個人的には電池式時計を「時計」とはあまり言いたくない。高性能時計であるほどそう呼びたくない。むしろ「ウォッチ」と呼んだ方が(私には)しっくりくる。私がすっかり古い世代の人間に属しているからなのだろうが、時計と呼ぶに相応しいのはメンテナンスを通じた長期使用を(ある程度)前提にした手巻き式時計だけだと感じている。無論、時計に本来の機能以上の価値を感じない人には、時計を「時計」と呼ぶか「ウォッチ」呼ぶかはどうでもいい話である。それと同じで、文字を書く機能だけを満たしさえすれば、それが鉛筆であれ、ボールペンであれ、万年筆であれほぼ無差別である。だが、こうした拘りが人をして輝く存在になるのではないか。

 スマートと言えば格好良いかもしれないが、見方を変えれば機能に本来持つ価値以上の価値を排除しているとも言える。スマートフォンに正確な時計機能が付いているから腕時計を付ける必然は失われている。だが、家電量販店に行けばスマートフォンのカバーが夥しく陳列されている。これが人間心理のどういう側面を表しているのか?ここを理解できれば、周辺環境のモヤモヤを少しでも解消できるのではないだろうか。

(中村 勝之)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:中村 勝之
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言

パルスオキシメーター

 新型コロナウイルスの感染拡大で感染者が重症化するかどうかを把握する医療機器「パルスオキシメーター」、原理を考えたのは日本の技術者で4月に84歳で亡くなった青柳卓雄さんであると朝日新聞天声人語(2021年8月28日)で知った。

 パルスオキシメーターは、血液中のヘモグロビンがどの程度酸素と結びついているかを示す「酸素飽和度」を光で測定する機器。酸素飽和度の数値は症状の程度を見極める目安の一つになっている。現在では指先に挟んで測るのが一般的である。

 新潟に生まれ、新潟大学工学部で学び島津製作所入社。光に関わる仕事を希望して1971年に日本光電工業に移り、医療機器の開発研究に力を注いだ。心臓から送られる血液量を光で測る機器を改良するための研究をしていた時、光を当てることで酸素飽和度を正確に測る原理を発見した。当時、酸素飽和度を安定的に測定することは不可能とされていただけに、青柳さんは学会誌の回顧録の中で「こんなうまい話が、この世にまだ残っているとは」と振り返っている。

 1973年に学会で発表。その後、日本光電は耳たぶに挟むだけで酸素飽和度が測れるパルスオキシメーターを開発した。指先に挟むタイプに進化すると世界に普及していった。パルスオキシメーターは現在、全身麻酔手術に欠かせない医療機器として定着。新型コロナウイルスの感染者が増えた際は、厚生労働省が軽症者の宿泊施設などに配備を促すなど注目が集まった。

 青柳さんは2002年に紫綬褒章を受章。2015年には米国電気電子学会が医療分野の技術革新者に贈る賞を日本人で初めて受けた。日本光電の小林直樹・特別研究員は「論文を書くより、役に立つものを作りたいという根っからの技術屋でした」。その死を悼んだ米イエール大の名誉教授は、青柳さんを2013年のノーベル医学生理学賞の候補に推薦したとの秘話を明かした。この計器に毎日お世話になりながらご冥福をお祈りします。

(宮本 輝)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:宮本 輝
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言