2021年11月04日

ランチェスター戦略に見る「真ん中の悲劇」

 経済学には「規模効果」というものがある。通常、生産拡大を狙う企業は生産量を大きくしようとする程経費もどんどん拡大する「費用逓増」の状況に直面する。結局、生産拡大の結果実現する収益増と増えた経費とのバランスを考えざるを得ない。因みに、経費を生産性に置き換えれば、生産拡大を考えてもそこまでの生産性向上が望めない「限界生産物逓減」の状況と同値である。冒頭の規模効果とは、生産拡大を考えても費用の増加の程度が軽減される、生産性で言い換えればどんどん生産性向上が望める「限界生産物逓増」の状況を表す。ただし、規模効果を発揮するには扱われる財・サービスの特殊性や企業規模の影響を受ける。

 さて、大学業界においてもこの規模効果が発揮される場合があると言われている。その規模とは学生の在籍者数1万人を超える大学である。文科省に拠る諸策が所謂大手私学に有利に働くのは、おそらくこの規模効果の影響が大きいと考えられる。そして、在籍者数3千人未満の大学は文科省の諸策を忠実に実施する程に経費が掛かり、状況が改善するどころか悪化することが懸念される。こう考える時、規模効果の期待できない弱者である小規模大学が活き残るための戦略のヒントは、確かに「ランチェスター戦略」に帰着すると言ってもいいだろう。

 ただし、このランチェスター戦略を安直に受け止めるべきではない理由が少なくとも3つある。1点目は、在籍者数7千人程度の所謂中規模大学においてランチェスター戦略を取る余地が(小規模大学に比べて)小さいと考えられる事である。ならば、規模効果を発揮できるようになるまで規模自体を大きくしなければならないが、そのいずれを採用しようとも、それに伴う経費増はバカにならず、結局の所、(財務状況に代表される)体力勝負にならざるを得ない。それに耐えうる大学がどれだけあるのか、甚だ疑問である。2点目は、仮にランチェスター戦略で上手く生き残れたとしても、生き残った先の戦略は別の物を立案しなければならない事である。悲しいかな、人も組織も改革の初期段階では膨大な熱エネルギーを発散させるが、早晩消えていく物である。消える熱エネルギーを充填するには別なエネルギー源からの補填が必須である。所謂「エネルギー保存の法則」が如何なく発揮される。その別のエネルギー源がこれまでの組織維持に必須のものである程、体力維持が難しくなる事も、エネルギー充填に焦って当初の戦略が歪められる事も容易に想像がつく。

 そして3点目は、組織変革には人のエネルギーが必須であるのだが、「戦略」という言葉を妄信する余り、それを実行する人のエネルギーの結集を疎かにしがちになる事である。このとき、小規模大学であれば人のエネルギー結集にそこまでの労力を費やす必要はない。放置すれば生活の糧が奪われてしまうのだから。一方、規模効果の働く組織であれば、人のエネルギーがバラバラでもクリアできてしまう。それがまさに規模効果だから。そう考えると、中規模大学のエネルギー結集が一番難しいという事になる。中規模大学はランチェスター戦略を採用する小規模大学からの突き上げ圧力は(少なくとも現時点で)強い訳でもないが、さりとて、規模効果を発揮するまで規模を拡大するだけの体力に乏しい。よって、中規模大学が採用しがちになる戦略は「現状維持」に帰着する。ここに、かつて私の発言で一時期FMICSにおいて流行った「真ん中の悲劇」が出現する訳である。

 もし、中規模大学においてランチェスター戦略を立案するとしたら、どうすればいいか? 私ならば、組織内の「有能な人材」を集めて彼らに自由に動いてもらう。ここで注意しなければならないのが「やる気のある人材」の登用には慎重になるべきだという事である。かつて本欄でも述べたが、「やる気のある無能な人材」が組織にとって一番邪魔である。その邪魔な存在を、ランチェスター戦略の実行部隊の中核に入れるのは自殺行為だと言っても過言ではない。その意味で、組織中枢にいる人が現場で動く人材の技能をどこまで的確に把握しているか、戦略立案の前段階で是非とも意識しておきたい事項である。

(中村 勝之)

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NDD

 今回は「リモコン迷子」が開発動機(2021年10月25日(月)日本経済新聞「経営の視点」より)に思わず目が留まった。「それ、一体誰が買うんや」。アイリスオーヤマの大山健太郎会長の口癖。開発担当の社員から様々な商品開発の提案が来るが、大山会長は業界的な横並び発想を嫌う。「主婦は財布に数千円、数万円を入れて買い物に来るときは常に真剣勝負。プロの目線は大体ずれる。買う側の視点で考えるように伝えている」(大山会長)。

 この10年で急成長したアイリスオーヤマ。同社を筆頭としたアイリスグループの年間売上高は東日本大震災が起きた2011年に2400億円弱だったが19年に倍増。20年は6900億円に達し、このペースでいくと22年には1兆円に達する勢いである。

 アイリスが急成長した理由は大震災以降の発光ダイオード(LED)需要の急増、デフレ下で値ごろ感のある家電商品が売れたことが大きいが、そもそも独創性の高い商品開発能力にある。ひと言で表現するならば、消費者行動の変容に応じたモノの定義変更である。

 例えば園芸であれば、「育てる園芸」から「飾る園芸」に変更。プランターやベランダ用の飾り付け商品をガーデニング市場に一気に広げた。ペットであれば、「番犬」扱いだった存在を「家族」に見立てる。それまでは外の犬小屋が中心だったが、室内用のサークルやトイレ用品など新たなマーケットを創造した。そして衣装ケース。中身が見えないカラーケースが主流だったのに対して、どこに何を置いているのかがわかる透明ケースを開発。「しまうケース」から「探せる衣装ケース」に意味を変えた。

 近年、業績を押し上げている家電製品も姿勢は同じ。国内消費が停滞している理由について「横並びの価格競争に尽きる。モノ中心の差別化では限界がある」と大山会長は指摘する。モノの品質はデジタル化で年々アップし不満はなくなる。しかし「コトへの不満はある。そこがキーワード」(大山会長)。

 例えば19年に本格参入した液晶テレビだが発想が面白い。パネルの品質は大手家電とも変わらず性能が劣ることはない。しかしそれではアイリスらしくない。テレビユーザーの悩みや不満を聞くと映りではなく、「リモコンが見当たらなくなり、チャンネルを変えられないこと」が問題だった。そこでテレビに直接音声入力をする「音声操作4K対応液晶テレビ」を19年11月に投入。初年度の出荷台数は予定の2割増だったという。来年には冷蔵庫に本格参入する予定だが、消費者の潜在的な不満を先取りした機能を備えているようである。ちなみに社内にアイデア発掘のための秘密コード≠ェある。「なぜ、どうして、どうすれば」のNDD。シンプルな言葉の方が共有しやすく実用本位である。

(宮本 輝)

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