桜美林大学大学院での授業科目「大学アドミッション」のテキストとして、渡邊一雄 編(2010)『大学の制度と機能』 玉川大学出版部の中から、特に表題に掲げた第4章を指定しています。
本書の全体の章立てと、ご紹介する第4章の構成は以下の通りで、高等教育政策の課題に直面している文部科学省の職員が中心となって執筆しているものです。
第1章 序説 大学について
第2章 大学制度
第3章 大学教育の現状と課題
第4章 高等学校と大学の接続(高大接続)
第1節 高大接続とは
第2節 大学(旧制高校)入試の諸相@(戦前)
第3節 大学入試の諸相A(戦後)
第4節 「大学全入」時代の大学入試
第5節 「大学全入」時代の高大教育接続
第5章 大学における研究と科学技術・学術政策
第6章 大学における教育・研究のモード変容
高大接続の問題を扱った第4章は、加熱する入試競争の問題として立ち現われてきた我が国の高大接続の歴史的経緯から、全入時代を迎えての課題や初年次教育やリメディアル教育の動向などとともに、加熱する進学競争を支えてきた予備校や進学雑誌などの受験産業の歴史についても洩らすことなく取り上げており、興味深い内容となっています。
一貫している視点は、高大接続における「進学」と「学校教育の連続」のあり様、そして大学入試の「選抜」と「学力把握」の問題です。
我が国の大学入試が歴史的に激しい「進学」競争による「選抜」の問題に収れんしてきたがゆえに、受験機会の複数化や受験負担の軽減、推薦入試の導入等の入試改革の試み行われてきたものの、「学力把握」自体は従たるものとして適切な制度化や改革が伴わず、「学校教育の連続」の点で課題を抱えたままであったのです。それが全入時代を迎えて「選抜」とともに「学力把握」が機能不全を起こして「学校教育の連続」が困難となる、構造的な問題を見ることができます。
本書は他の章を含めて、大学制度の機能と課題にかかわる歴史的背景がとてもバランス良く整理されています。刊行からすでに5年が過ぎようとしていますが、現在の政策動向の背景を理解する上でも、お手元におかれることをお薦めいたします。
(出光 直樹)

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