多くのお客さんが帰り際に口にする言葉があります。それが「美味しかったよ。ありがとうね」です。お客さんから、気持ちのいいくらいに帰り際に聞こえてくるこの言葉が心地よくて、私が予約する時は出入り口近くの席をお願いします。このおかみさんの配慮がすごくて、見ていて大変勉強になります。座敷は4人席が3つあるのですが、すべて満席にしてしまうと少し空間が窮屈になるので、予約時に調整して3人、2人、4人くらいの感じで座らせています。常にお客さんのことを考えて、予約を取っているのでギュウギュウの席は作らないといっていました。開店当時は出前にも対応していたようですが、来店するお客さんに満足していただけるように、数年前から出前はしていないといっていました。
私は東村山に移り住んで16年目になりますが、その間に数多くのお店が開店して閉店する様をたくさん見てきました。当初、この「うなぎ屋」も継続するのかという気持ちで入店してみたのですが、今では心地よい空間に魅せられて、沢山の友人に紹介もして行きたいお店の一つになっています。
先日、このお店のおかみさんから、またしても魅力ある言葉を聞いてしまいました。それは、以前おかみさんが私に「どんなうなぎが好きですか?」という質問を受け、「あまり脂がのっていないうなぎが好きだ」と答えたのを覚えていて、私の予約時にはその日に入荷したうなぎの中でも、私好みのうなぎを取っておくという話だったのです。行くたびに感じていた、私好みのうなぎはこうして出されていたのでした。ここまでされているとはつゆ知らず、「美味しい」と感じて通っていたのです。多くの常連さんが感じる「美味しかったよ。ありがとう」の言葉は、このひとり一人のニーズを探り当て対応してきた賜物だったのです。繁盛する店の素敵な理由を見つけた瞬間です。
ふと大学も同じ対応が求められる時代が来るのではないか。ひとり一人を大切にして、ニーズを探り卒業時に、「先生ありがとう。この大学で本当に良かった」といわれるくらいの大学を目指したいと東村山の「うなぎ屋」から学びました。
(秋草 誠)

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