2018年10月10日

入試不正の防ぎ方<後編>

<前編から>

 東京医科大学の入試不正を受けて実施された、文部科学省による「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係わる緊急調査」。9月4日付で速報が出た後、この稿を書いている10月上旬の段階では、その後の続報は出ていいませんが、おそらく速報で明らかになった事(男子の合格率が高い傾向に有るが、東京医科大学の他に意図的な不正を行った事例は無い)以上の結果は出てこないだろうと思います。

 今回の東京医科大学の不正は、募集要項に書いていない得点操作を秘密裏に行っていたというものですが、このような不正を防ぐ為に必要なポイントは、(1)複数の目による協同作業、(2)公益通報の仕組みの強化、という視点が大切と思います。

 秘密保持が必要な入試業務ですが、作業ミスや出題ミスを防ぐ上でも、「複数の目による協同作業」は重要なポイントです。例えば横浜市立大学の場合、採点答案からシステム入力したデータは、入力元と出力帳票を全件読み合わせをし、センター試験成績のように他のシステムから取り込んだデータであっても、一定数のサンプルのチェックを行います。その際は人手も必要な事から担当課の職員のみならず、多くの入試担当の教員も一緒になって読み合わせ作業を行います。こんな事務作業に教員を駆り出すはどうかと思う事もありましたが、今回の東京医科大学の事件をうけて、これは不正防止という点においても大切な作業なのだと、改めてその意義を実感しています。

 複数の目による協同作業が行われているだけでも、かなりの不正は防げると思いますが、それと共に、公益通報の仕組みを強化していくことも重要でしょう。東京医科大学の内部調査委員会がまとめた報告書では、東京医科大学には私立学校法によって必置の監事の他、法令違反行為や医療安全等に関する相談・通報を受ける内部監査室が設けられていたものの、それが機能しなかった事が今回の事件を防ぐことの出来なかった原因の1つであると記しています。今回の不正は得点集計段階で密かに行われてきたものの、やはり当時の理事長や学長の指示に従って実際に操作した職員が何名かいたわけで、その内の1人でも良心に従って行動を起こし、その行動をサポートする仕組みがどこかにあれば、防ぐ事が出来たはずです。

 ただし大学に限らずわが国の現状では、通報者の保護の面などで公益通報の仕組みはまだまだ脆弱であり、自分が不正に関与させられた立場であれば、はたして声を上げられただろうかと自問した方も多いでしょう。

 数多の報告書を求めるだけでなく、不正を見聞きした現場の教職員が安心して通報・相談できる仕組みを整備することが、行政の役割として大切だと思います。

(出光 直樹)

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タグ:出光 直樹
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言
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