2019年01月25日

カリスマの要らない組織 その2

 第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会準決勝(1月2日、東京・秩父宮ラグビー場)で帝京大学は天理大学に敗れ大学選手権10連覇を逃した。2018年12月28日(金)日本経済新聞オピニオン欄で同紙コメンテーター・中山淳史氏が「カリスマのいらない組織」を論じていたのを思い出し、再度読み返してみた。

 帝京大学の岩出雅之監督は「選手が自律的に考え、自ら成長する集団をめざした」と著書で書いており、それより前に「自律的集団」づくりで注目され、同氏にも影響を与えたと考えられる監督が中竹竜二・元早稲田大学ラグビー部監督(現日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)である。指導法の根幹にあったのは「フォロワーシップ(追随者精神)」という精神、リーダーシップの逆である。

 ラグビーとはそもそも「ワンフォーオール、オールフォーワン(一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために)」を信条とするスポーツ。15人の選手一人一人が自らのポジションで役割を明確に意識し、チームの勝利のために最善を尽くす。それが徹底されるのであれば、カリスマ的な指導者やキャプテンは不在でもいいとの考え方であった。

 中竹氏に話を聞いたところ、フォロワーシップとは一般に忠実で献身的な姿勢や態度を選手に求めることだと思われがちだが、同氏の場合は「リーダーである自分に向けた言葉でもあった」と話す。

 つまり、フォロワーには選手と指導者という2種類があり、監督は「リーダーでありながら周りを『支える者』であり、フォロワーとしての選手全員をリーダーのように行動できるよう導く責任を負う」と言う。この話は企業経営に通じるとして昨今の不祥事や事件を踏まえ当事者の企業経営者はリーダーである一方、よきフォロワーだったのだろうかと問う。

 さらに企業内のフォロワーシップを長年研究する近畿大学の松山一紀教授によると、社員には経営層に対して意見を積極的に言う「プロアクティブ型」と、」意見はあるものの経営者に促されないと言えない「能動的忠実型」、全く意見を言わない「受動的忠実型」の3タイプがあるという。

 世界で比べると、プロアクティブ型は欧米で全体の約3割を占める一方、日本は16%にとどまり、日本は積極的に意見を言わない能動型忠実型と受動的忠実型が合わせて8割以上に達するので、「経営者の誤りを正すような自浄作用が働きにくい構造になっている」(松山氏)と言う。

 一方で不祥事が多かったスポーツ界では一足先にフォロワーシップやオーガニゼーショナル・シチズンシップ・ビヘイビア(OCB)という考え方を参考に再建が始まっているという。OCBは日本語で「組織市民活動」のことを言う。例えば、世界が称賛した日本人サポーターによるサッカー場でのゴミ拾いなど率先的な行動、奉仕のこと。強いリーダーシップに再建、再生を託すより、まずはフォロワーがそれぞれ自主性と指導力を磨くことを新年へ向けて提案している。(次号へ続く)

(宮本 輝)

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posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言
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