2019年06月05日

入試で「死」を考える

 1990年に始まった「大学入試センター試験」は、2020年1月の実施を最後に廃止され、2021年1月からは「大学入学共通テスト」(新テスト)が実施される。取り上げられる機会も多くなる中、2019年5月31日(金)毎日新聞「滝野隆浩の掃苔記」より『入試で「死」を考える』という記事に目が留まった。

 滝野氏が昨夏に出版した「これからの『葬儀』の話をしよう」(毎日新聞出版)が今春の江戸川学園取手中・高等学校(茨城県取手市)の入試に使用、葬儀や墓、そして死生観の変容についての本である。例えば平成期、散骨や樹木葬まで墓の代わりに認められるようになった実情など5000文字以上ある。驚いたのはそのテーマ、最後はこんな設問。〈問10「散骨ブーム」が広まった経緯を100文字以内でまとめなさい。解答には「イエ(家)制度」「自然葬」「法」の3語を入れること〉。

 滝野氏は出題した先生に会いに行き、中高一貫校と聞いてまさかと思って確認したら、なんと中学入試、この問題文に小学6年生が取り組んだ。あっけにとられながら先生に入試や国語教育のことを聞いた。今の子たちは「友情」とか「夢」とかに関する出題をしても、ほぼ完璧に答える。だからあえて「簡単には答えられない」テーマにしたかった。そうすればその子自身の考えを引き出せるし、これから先もっと知りたいと思うかもしれない。さらに先生によると国語の教科書に載る「死」をテーマにした作品は、井上ひさしさんの「握手」くらいだとか。「ナイン」という短編集(講談社文庫)に収録、児童養護施設にいたことのある「わたし」が園長だったカナダ人の修道士との対話を思い出していくストーリー。戦争中のつらい話や「先生、死ぬのは怖くありませんか」と問う場面も。修道士は亡くなり、葬儀に参列した「わたし」の思いを問う問題がテストで出たら・・・滝野氏は「小学生の私はたぶん100文字どころか言葉にできなかったろう」。これまで続いてきた人の死にまつわる儀式やしきたりが今の時代に合わなくなってきた。みんな気づいてはいるけど、どうしたらいいのかわからない。そうしたことを文章を読んだ子供たちがいつかちょっとでも思い出してくれたら嬉しいと滝野氏は結ぶ。

 関連して2019年5月25日(土)毎日新聞「土記」にて青野由利専門編集委員による『人体をコンポストに』という記事を紹介したい。墓じまい、無縁墓、合葬墓、散骨、お墓のあり方の変化を示す言葉をよく見聞きする。そうした変化は日本に特有の問題かと思っていたら、あっと驚くニュースを欧米メディアが伝えていたと青野氏。米ワシントン州が全米で初めて「遺体をコンポスト(堆肥)にすること」を合法化し、知事が法律に署名、施行は来年5月。米国では通常、遺体を保存処理してひつぎに入れて埋葬するか、火葬にするかのいずれか。コンポスト化はそのどちらでもない第3の方法として登場。提唱者として紹介されているのは、シアトルで「リコンポーズ」という会社を設立したカトリーナ・スペードさん。自然のプロセスを利用して体を土に返すこと、短期間で微生物に分解してもらおうというアイデア。では日本だったら?青野氏がスペードさんにメールで尋ねると「日本の文化にもふさわしいのでは?もちろん、人々の感じ方次第だけど」。宗教や文化だけでなく、科学や環境の視点からもお墓を考える。そんなきっかけになるかもしれないと青野氏。今回「簡単には答えられない」テーマと向き合った小学生に未来の大学受験で再度同じテーマを問いたいと思った。

(宮本 輝)

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posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言
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