インターネットで簡単に情報がやりとりできる今、あえて「じっくり書く」ことの意味が見直されている。東京都小金井市のブロガーあまかすさんは、ほぼ毎日ブログを更新する。題材はグルメやアニメなど。文章を作るにあたりまずはA5判のノートを開きペンを握る。例えば11月下旬のある日のテーマは、市販のレトルトカレー。ノートには「スパイスがきいて、からくてうまい」と一番言いたいことを最初に書き、「チキンにもしみておいしい」「コスパは悪いが刺激を求めるならこれ」と記していく。順番を整理し最後にタブレット端末を起動させて、キーボードで一気に文章を打ち込む。
あまかすさんは、以前はパソコンで直接ブログを書いていたが、時間ばかりかかって伝えたいことがまとまらない。知り合いのブロガーに勧められてノートに下書きをしてみると、「言いたいことが短時間で整理でき、筋の通った文章になった」という。東北大学加齢医学研究所によると、手書きの方がパソコンの文字打ち込みに比べて、思考や情報処理を担う「脳の前頭前野」を活発に動かすという実験結果が出ているという。
パソコンはすでに社会に定着している。企業では手書きでなくともよく考えて文章を作り、思考力を高めようとする取り組みが広がっている。アマゾンジャパン(東京)の社内会議では、「パワーポイント」などのスライド式の資料作成ソフトは使わず、社員が1ページまたは6ページのワード文書に意見や提案をまとめる。その文書を全員で読んで論議する。スライド式の資料は、図や矢印などが挿入でき、短文で論点を示せる。だが、個々のスライドは分かりやすくても、全体を通して読むと意味が理解できなかったり、論理的につながらなかったりすることもある。同社の担当者は「一連の流れの中で説明する文書を作る方が、社員たちの論理的な思考力が高まる」と長文重視の理由を説明する。
新型コロナウイルスの蔓延で「死」の恐怖が国中に広がり、命を守る(と信じられている)マスク、生活が不自由になると(思い込まれている)トイレットペーパーなどの「今の生活を維持しよう」という保身の「欲」剥き出しの消費行動が人間の浅ましい姿を垣間見させる。相田みつを氏の言葉「奪い合えば足らぬ、分け合えば余る」を心に刻み、お互いを励まし合ってこの危機を乗り越えていきたい。
(宮本 輝)

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