この映画を企画した上原拓治さん(45)は、3年前がんで義妹を失った。自分には無縁な病気、そう思うからこそ不安に陥る。「がんが疑われて動揺しない人はいません」。がんについて一からわかる映画を目指し、三宅流監督(44)と共に医師や看護師、患者ら15人を取材。病気と向き合う手立てを丹念に拾った。
助からない病の代表では?「がんイコール死というのは30年も前の古いイメージ。今はがんと共存できる時代です」。専門医が力を込める。怖くてしかたがない時は?「患者の恐怖を医学は解決できません」。医師が限界を率直に語る。何より頼りになるのは経験者の生の声だという。患者たちはピア(仲間)サポートの部屋で不安をはき出す。治療に納得できない場合は?「医者はどうしても生存率にこだわる。ですが優先されるべきは患者の生きがい」。自身もがんと闘う医師が答える。好例として挙げられたのは舌がんの落語家。「高座に上がりたいから舌は切らない」と外科手術を断った。
あせらず、あわてず、あきらめず。経営やスポーツの哲学としてしばしば聞く心構えがそのまま当てはまるのではないか。生涯で2人に1人ががんを経験する時代、この病気と付き合う「知恵袋」のような映画であるとまとめていた。
そして天声人語の左上にある「折々のことば」では、元CM制作者の漫画家・エッセイストの本田亮著『転覆家族が行く!!死ぬとき後悔しないための家族&仕事術』(フレーベル館)から『もう少し「金」曜日を減らし意識して自然と触れ合ったほうがいいんじゃないか』を紹介していた。激務が続く中、週末よく家族とキャンプに出かけある日ふと思う。曜日の名はもっと自然と触れ合えと伝えている。月を見る、火を熾す、水と遊ぶ、木に触れる、土を踏む、陽光を浴びる。満員電車で鉄筋のビルに通い、プラスチックのパソコンを操作して「金」を稼ぐばかりだと、心が乾いてしまうよと。
(宮本 輝)

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