2021年05月05日

強い会社は「学びの場」

 大学は仕切り直しの春のはずが新型コロナ変異株「第4波」急拡大に伴い対面授業を中止または最小限にして実施している。日本経済新聞2021年4月8日オピニオン欄「強い会社は学びの場」にて会社を学習インフラ化する動きを見ていきたい。

仕事の場を「学びの場」にする試みとして不動産関連サービスのLIFULL(ライフル)が手がけるリビング・エニウェア・コモンズという事業がある。全国各地の遊休施設を転用し、仕事ができる滞在型の拠点として貸し出す。現地の人との交流で自分の知らない世界と出合い、新たな着想がわいたという声が利用者から上がる。フリーランスなど個人の利用が中心だったが、今「オフィス」として関心を寄せる会社が増えている。働きながら従業員が成長するのを促す。「こういう自由な働き方を認める会社に若い人は集まる」。事業責任者は予想する。人材を丸抱えして自社のカラーに染め上げる手法はもう通用しない。寿命が延び、人生設計は転職や起業が当たり前になる。キャリアアップのため会社を去る従業員がふつうに出てくる。従業員を支援する手を抜く会社は求心力を失う。

 学びは年齢を超えたテーマになった。20年創業のスタートアップ、コノセル(東京・新宿)が運営する「コノ塾」・小中学生がタブレット端末で取り組む学習カリキュラムはアルゴリズムで個別につくられ、進捗や理解度をデータで把握する。システム任せではなく、人によるサポートで子供たちを励ます。CEOが言う。「勉強したら成長するという成功体験をもつ子供を増やしたい」。新しい学び方に慣れ親しんだ世代が台頭する。大人になった彼らが「ここは学べる。自分を磨ける」と感じる会社でなければ、選択肢からふるい落とされる。新入社員を迎えまずは研修という会社が多い。「わが社は若い人たちの学びのニーズを満たせているか」経営者が自己点検すべき事柄である。

 哲学者の鷲田清一さんは大阪大学の学長として、かつて入学式で語りかけている。「森のなかでいちど道に迷うこと、方向喪失の状態に陥ることが、じつは大学で学ぶことの意義なのです」。なぜわざわざ道に迷わねばならないのか。鷲田さんは言葉を継いでいる。「答えがわからないまま、それでもたえず何らかの方向を選択していかなければならないのが現実世界というものです」(『岐路の前にいる君たちに』)。鷲田さんは告辞で言っている。「大学には膨大な知見とスキルがある。」(読売新聞2021年4月3日「よみうり寸評」より)

(宮本 輝)

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posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言
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