2021年08月04日

人蝉見て我が無知を想ふ

 生まれは違うものの人生の殆んどを関西で過ごしてきた者にとって、蝉といえばクマゼミだと言われている。だが、周辺環境の事情からか、私にとっての蝉はアブラゼミだった。無論、クマゼミにも数多く遭遇したが、印象としてはアブラゼミの方が圧倒的に強い。

 クマゼミとアブラゼミ、今世紀に入る前後辺りからか、その生息分布に変化が起こっている事が言われている。要は西日本を中心に分布していたクマゼミが東日本にも広がっている現象である。その要因には温暖化があると言われているが、実際は両者の飛翔能力の違いによる所が大きいらしい。

 クマゼミは飛翔能力が高く、木々の間隔が長くなっても木と木の間を飛ぶことができる。一方、アブラゼミはクマゼミよりも一回り小さいため、木々の間隔が長くなると木と木の間を飛び移る事ができない。ご想像の通り、木々の間隔が長くなってきたのは我々人類の開発による所が大きい。

 私の職場は(千里ニュータウンを模して開発された)泉北ニュータウンの端っこにある。着任当時はそれなりに緑に囲まれていたが、宅地開発や産業集積地「テクノステージ和泉」のための造成目的で、緑が次々と削られていった。リーマンショックの影響か、様々な開発が頓挫し、野ざらしになった造成地がキャンパス周辺に点在する結果になった。最近でこそ開発が再び行われるようになったが、キャンパスに鳴り響く蝉の合唱はクマゼミで行われるのが日常であった。

 ところが、である。今年の夏は様相が随分と違う。蝉の合唱にいつもと違うことが混じるようになった。足元を見れば、寿命を終えたアブラゼミが横たわっている。これまで意識した事はなかったが、キャンパス周辺に多数のアブラゼミが生息するのは初めてではないだろうか。なぜこんな事になったのだろうか? 新たな宅地造成が始まったからか? 梅雨明け以降猛暑日が続いているとは言え、そこまでひどい熱帯夜になっていないからか? その真相は分からないし、世の中分からない事で溢れているとの想いが湧いてくる。

 地面に横たわるアブラゼミを見る時、自らの無知を強く自覚するとともに、新たなウィルスを制御できると考える傲慢さへの自戒の念を抱かずにはいられない。

(中村 勝之)

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タグ:中村 勝之
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言
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