この10年で急成長したアイリスオーヤマ。同社を筆頭としたアイリスグループの年間売上高は東日本大震災が起きた2011年に2400億円弱だったが19年に倍増。20年は6900億円に達し、このペースでいくと22年には1兆円に達する勢いである。
アイリスが急成長した理由は大震災以降の発光ダイオード(LED)需要の急増、デフレ下で値ごろ感のある家電商品が売れたことが大きいが、そもそも独創性の高い商品開発能力にある。ひと言で表現するならば、消費者行動の変容に応じたモノの定義変更である。
例えば園芸であれば、「育てる園芸」から「飾る園芸」に変更。プランターやベランダ用の飾り付け商品をガーデニング市場に一気に広げた。ペットであれば、「番犬」扱いだった存在を「家族」に見立てる。それまでは外の犬小屋が中心だったが、室内用のサークルやトイレ用品など新たなマーケットを創造した。そして衣装ケース。中身が見えないカラーケースが主流だったのに対して、どこに何を置いているのかがわかる透明ケースを開発。「しまうケース」から「探せる衣装ケース」に意味を変えた。
近年、業績を押し上げている家電製品も姿勢は同じ。国内消費が停滞している理由について「横並びの価格競争に尽きる。モノ中心の差別化では限界がある」と大山会長は指摘する。モノの品質はデジタル化で年々アップし不満はなくなる。しかし「コトへの不満はある。そこがキーワード」(大山会長)。
例えば19年に本格参入した液晶テレビだが発想が面白い。パネルの品質は大手家電とも変わらず性能が劣ることはない。しかしそれではアイリスらしくない。テレビユーザーの悩みや不満を聞くと映りではなく、「リモコンが見当たらなくなり、チャンネルを変えられないこと」が問題だった。そこでテレビに直接音声入力をする「音声操作4K対応液晶テレビ」を19年11月に投入。初年度の出荷台数は予定の2割増だったという。来年には冷蔵庫に本格参入する予定だが、消費者の潜在的な不満を先取りした機能を備えているようである。ちなみに社内にアイデア発掘のための秘密コード≠ェある。「なぜ、どうして、どうすれば」のNDD。シンプルな言葉の方が共有しやすく実用本位である。
(宮本 輝)

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