2021年12月08日

自動車の究極の安全装置

 今の自動車の性能は私が運転を始めた30年近く前と比べても格段と向上している。とは言え、
昨今は高齢者による自動車事故がクローズアップされている。思えば私が運転を始めた頃は、変速機構がMT(マニュアル・トランスミッション)からAT(オートマチック・トランスミッション)に切り替わり始めた時期で、ATの操作ミスによる事故がクローズアップされていた。この事を思えば、今の事故についても新機構が運転者の中で定着するまでの過渡段階と言えるかもしれない。

 自動車の性能向上は主にエンジン性能や制動性に関する物であるが、それ以外にも良く考えられて設計・製造されている。例えば、F1カーなどを真正面から見ると、タイヤがハの字に装着されているケースがある。これを「ネガティブ・キャンバー」と言って、コーナリング時に遠心力に対して車体をより踏ん張らせる目的で設定される。巷にはとんでもなくハの字にした車を見かける事があるが、これは単なるファッションであって車体及び財布に何1つ良い事はない。ところが、ノーマル車では整備のために車体をリフトアップしたときに、タイヤが逆ハの字になっているはずである。これを「ポジティブ・キャンバー」と言い、ネガティブ・キャンバーと逆で、コーナリング時に車体が踏ん張らない様にしている。

 もう1つの例としては、自動車を真上から見たとき、タイヤがハの字になっている場合がある。これを「トー・イン」と言って、ゼロヨンと言う400mの直線を全速力で走るレースで使用される車体でよく設定されている。コースにコーナーがないので、まっすぐ走る際の安定性を最優先に考え、トー・インに設定している。ところが、ノーマル車体の場合、トー・インだと交差点等で上手く車体を曲げられなくなる。そのため、ノーマル車体は逆ハの字、つまり「トー・アウト」に設定されている。とはいえ、トー・アウトの設定は高速走行時の直進安定性は損なわれる事になる。

 これ以外にも数多の設定がノーマル車体に施されているが、その共通した方向性の1つは「運転が怖い」と思わせる事である。因みに、ノーマル車の設定の別の方向性に静寂性があるが、度を過してこれを指向しない方がいい。車体の異変に関する情報は聴覚からしか入力されないからだ。話を元に戻すと、許容を越えた速度でコーナーに侵入すれば車体が外に吹っ飛んで事故を誘発しかねない。また、許容を越えた速度で高速を走ればハンドルがふらついて事故を誘発しかねない。これらはいずれも我々の五感に「怖い」という思いを抱かせる。それをして、我々は自動車を安全に運転しようと意識づけるのである。その意味において、自動車の安全運転の究極の装置、それが我々の五感なのである。

(中村 勝之)

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タグ:中村 勝之
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言
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