元陸上の為末大氏が先日、SNS(交流サイト)で私たちの国は「なにかあったらどうすんだ症候群」にかかっている、と発信していた。それは社会に安定と秩序をもたらすが、副作用として停滞を生み。個人の可能性を抑制するという。この症候群は、未来を予測してコントロールできるものと考え、その逆算でしか物事を判断できない。だが、実際には、予測しないことが必ず起きる。それをイノベーションという国もあるが、この国では「危ない」や「予想外」となる。ここから抜け出るためには「やってみよう、やってみなけりゃわからない」を、社会の合言葉にしなければ。
北川氏は、変化を恐れ、安定と現状維持を無意識に優先する雰囲気が、社会の意思を決定し、その結果、世界の変化に追いつけず社会の劣化が進み、デジタル技術でイノベーションとか生産性の向上とか力んでも、これでは絵空事で終わるしかないと指摘する。さらに、未来は予測もコントロールもできないと覚悟した上で、リスクを正しく認識して最小限に抑える備えを怠らず、物事の優先順位を考えて行動することが重要であり、今なら昔よりずっと効率的にそれを実行できるはずとし、大リーグの中継で気がついたことを説明する。正反対のことが当たり前のように行われている。故障を回避するため投手は約100球で交代、主力選手もよく欠場する。一方、守備では無謀にも見える極端なシフトを敷く。どちらもその背景にあるのは最新のデータ分析や医科学の進化。そして選手生命とゲームの勝敗の優先順位。価値を最大化するためのリスク管理といえるだろう。スポーツだからできるという意見もあるだろうが、スポーツから学べることはたくさんある。
東京都心、9日連続で猛暑日の最中にオープンキャンパスがあり、急きょ水とアイスを提供することになったが、業者から某高級アイスクリームが納品、まさに「予測しないことが必ず起きる」。請求書が届いたらどうするか…、最近の「合言葉」である。
(宮本 輝)

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