主力の文庫サイズは手帳本体が2000円台、アーティストらによるカバーが2000〜3万円台と安くないが、その分、材質やケイ線の位置など細部まで工夫を凝らす。初めて02年用の手帳を開発したころから「やがて世界一の手帳を作る」と「冗談で」言っていたそうだが、13年用から英語版も開発、22年用は直販と卸で156カ国・地
域に722万部を販売。手帳関連の商品は100種類を超す。
時間管理はスマートフォンという時代になぜ紙の手帳なのか。「デジタル一辺倒ではなくデジタルとアナログが共存する時代になると以前から言ってきた」と糸井重里社長。「デジタル機器は情報を共有するのに便利。しかし人には共有できない、したくないものがたくさんある」。
ほぼ日手帳は1日に1ページをあてる。利用者は行動記録だけでなく自分の感情や思いつきも書き込める。映画の半券を貼る人もいる。字は汚くても自身が読めればいい。文字の乱れや予定を消した線も心の記録だ。1年が終われば自分だけのコンテンツが完成する。
最初から計算したわけではない。「お客さんが使い方を工夫し、僕らはそれを後追いして手帳を育ててきた」と振り返る。利用者が自分の使い方を教えあいコミュニティーをつくる。海外も同じだという。「(売り手による)マーケティングだけが何かを広げる方法じゃない」。
欧米にも手帳はある。しかし海外はもともと文具自体の種類が少ない。日本は実は文具大国だ。子供のイラスト入り文具に始まり持って楽しく、感情移入の対象にもなる文具は、繊細で小さいものをめでる日本ならではの存在といえる。
ほぼ日手帳も色使いや日本語表記などで「日本の文具らしさをあえて残している」。日本発のブランドという点を強調している。既存顧客との対話などを通じて埋もれた宝を自ら見つけ、時代に合わせて磨き上げることは可能なはず。「身近に潜む日本の魅力」をキーワードにあらためて自大学の魅力を見つけていきたい。
(宮本 輝)

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