2023年04月05日

「楽しむ」を間違っちゃぁいけない

 2023年度が始まりました。高校から大学や短大、専門学校等に進学した人達がいるでしょう。学校を卒業して就職した人達がいるでしょう。職場で昨年度と同じ部署で働き続けることになった人達がいるでしょう。職場で部署が変わった人達がいるでしょう。いずれにしても、この時期は暦年の所謂「新年」とは別な趣がありますね。今回は昨年4月の本欄でやってみた管理責任者(社長、校長、学長、理事長など)っぽい訓示めいた話を再度やってみます。支離滅裂ですが、お付き合いいただければと思います。

 WBC日本代表が3大会ぶりの優勝を飾ったのは記憶に新しい所でしょう。過去2回の優勝と今回の優勝の異同が様々な形で語られていますが、私の野球のレベルは草野球の補欠未満なので、野球の技術的な話や戦術・戦略といった専門的な話はできません。ただ、1つ気になった部分があったので、そこから話を起こしたいと思います。

 過去のWBCや五輪の野球チームはどこかしら重苦しい雰囲気を纏っていました。適切な表現ではないかもしれませんが「日の丸」の重圧に苦しんでいたような気がします。それが、今大会にそれをあまり感じませんでした。もしかしたら若手中心の布陣だったからかもしれませんし、メジャーリーガーが精神的支柱になってプレッシャーが緩和されたからかもしれませんし、要所を代表監督が押さえていたからかもしれません。ここぞの所で各選手が極限まで集中力を高めたからかもしれません。総じていえば、プレッシャーを楽しんでいた…そう感じた人が多いのではないでしょうか。

 表題にもある「楽しむ」の言葉。WBCの経験を通じて改めて「楽しむ」事の重要性がちらほら語られていますが、個人的にはここに違和感を覚えます。とあるYouTubeチャンネルで今回出場した某選手が語りました。『大谷選手のあの姿を見て真似ようと思っても、絶対彼みたいにはならない』結論めいたことを先に言いますが、こちらの方に真実があるような気がしています。とあるスポーツの国代表のキャプテンが言いました。『enjoy(=楽しむ)とは自分自身を出し切ることだ』これも真実の一端を語っていると思います。

 何がしかのスポーツをするに当たり、そこには優劣がどうしても付き纏います。レギュラー争いだったり、ライバルとの記録争いだったり、その先にある勝敗だったり。とりわけ、チームスポーツは陰に陽に出る争いに勝つためにどうしても軍隊的な組織になりがちになると言われています。上官である監督・コーチの言葉が絶対、下士官である選手達は時には理不尽な扱いを受ける。そうした事が子ども達からスポーツの「楽しさ」を奪っているという論調は長らく語られてきました。

 ただ、ですよ。スポーツの「楽しさ」って色んなレベルがあると思うんですよ。野球の例で言えば、やり始めの頃はボールを取れた、打てた、これだけで楽しかったはずです。ただ、試合経験を重ねるほどに「楽しい」とは別の感情が湧いてきます。一言で纏めてしまえば「上手くなりたい」になるでしょうか。「上手くなる」ためにはおそらく血の滲む努力を伴うでしょう。その努力が結果として結びつけば再び「楽しい」感情に浸ることはできるでしょう。ただ、この時の「楽しい」は初心者が感じるものとは明らかに異なるはずです。もちろん、「楽しい」感情をもっと味わいたいと思うのが人間の欲求ですから、そこから再度血の滲む努力をしなければならないでしょう。つまりです。WBCの選手たちが楽しげにプレーしたように見えて、その裏で我々の想像を絶する努力をしてきたはずです。それを我々は目撃できるはずもない。だから、スーパースターの表面を真似たって絶対その人のレベルに達しない。

 ここですよ。我々教育関係者が子ども達にさせないといけないのは。軽々しく「今を楽しめ」なんて言っちゃぁいけない。我々が子ども達に体験させるべきは苦しんだ先に見える「楽しさ」だし、すべてのプレッシャーを剥ぎ取った先にある集中力ですよ。無論、子ども達を苦しめるために理不尽な事をするなんて言語道断。そこを封じながら子ども達を努力させる手法なんて幾らでもある。我々がその努力を怠っちゃぁいけません。

 そして若者達、君達を輝かせるのはジタバタ苦しんだ先にある景色を見た先にある何かだよ。ボーッとしてる暇なんてないよ。周りを見てごらん。君たちに絶景を見せてくれるヒントが散らばってるから。分からなかったら大人達に聞いてごらん。ヒントを教えてくれるよ。見つけたが吉日、どんどんジタバタしよう。大人達は子ども達のそんな姿にニヤリとする、これが教育現場に相応しいですよ。

(中村 勝之)

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タグ:中村 勝之
posted by fmics at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 巻頭言
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