2025年01月08日

Ownership

 若い方には興味のない話かもしれないが,還暦を迎えて気づいたことがある。日本の平均寿命が長いのは医療制度が充実しているから。特に薬で生かされている現実がある。厚労省が公表している「高齢者の服薬に関する実態調査」によれば,1カ月に病院から処方された「常用薬」を服用している割合は約80%となっている。健康寿命は75歳あたりまでというが,これも常用薬あってのことかもしれない。かたや高齢者の犯罪率は上昇傾向にあって再犯率も高い(H29年度法務省犯罪白書)という。高齢者の比率が人口の約3割まで上昇している以上,仕方のないところでもあるが,再犯率の高さは何を意味するのだろうか。認知症や老化による影響もあるだろう。個人的には「当事者意識(ownership)の欠如」が要因のひとつなのではないかと考えている。「当事者意識」といえば, 780回例会で興津先生が問題提起された「人口減少」でも話題にあがり,つい先日の2024シンポジウムでも筆者が報告した「学びのかけ橋」で「当事者意識」の重要性を説いた。

 日本は「成熟した安全安心な社会(内閣府2018)」と言われるが,どれだけ国民一人ひとりが主体となって「安全安心に取り組んでいるか」は疑わしいところだ。日本財団がアジア・欧米の6か国の若者(各国千人)に実施している第62回18歳意識調査「国や社会に対する意識」によれば,質問7「自国の将来についてどう思うか」について「良くなる」は突出して低く15.3%。それ以上に「どうなるか分からない」と回答したのは31.5%と6か国の中で一番高いスコアとなっている。さらには,質問2「若者への支援は充実している」の回答は38.6%と,他国に比べ突出して低いだけでなく,「高齢者への支援は充実している」64.5%と,両者の乖離が他国よりも圧倒的に大きなことが特徴となっている。さらに,質問11「自身と社会の関わりについて」では,「自分は大人だと思う」49.6%「自分の行動で国や社会を変えられる」45.8%と他国に比べ著しく低い数値となっている。

 この調査は2019年から3回実施しているがいずれも同様の結果となっており,ここに日本社会が抱える課題の本質があるように思う。言い換えれば,この調査結果は若者に限定した事ではなく,大人の映し鏡になっているのではないか。という点だ。自身の周辺を眺めてみる。カスハラの一因ともいえる「サービス過剰」な社会。手取り足取りで教えるが「考えさせない」教育。枚挙に暇はない。こうした社会構造が「自立・自律」しない「日本人」を大量に社会に送り出しているのではないか。そして一様に(お薬とともに)高齢化して(ある意味において)磨きがかかる。

 どう解決していくべきか。その示唆を先日の2024シンポジウムで見つけたように感じた。別府大学の城さんがプレゼンテーションしてくれた「学びのかけ橋ってどんな橋?」である。ここにたくさんのヒントを確認できると思う。そして,城さんのようなたくましい若者をどう増やしていくか?が喫緊の課題であろう。と,他人事でなく自分事として捉えねばなるまい。

(新藤 洋一)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:新藤 洋一
posted by fmics at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 巻頭言
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/191214785
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック