2025年04月09日

ピグマリオン効果

 高校に出向いて進路講演や模擬授業を行う際に,最近は一方通行の授業ではなくワークショップ形式で実施することを心がけている。数年前までは,ワークショップ形式と話すと,慣れていない高校教員から怪訝な表情をされることもあったが,最近は探究学習の定着によって,机を幾つかの島(班)に分けて行うワークショップ形式を提案しても抵抗を示さなくなってきた。

 模擬授業での持ちネタは外山滋比古の「思考の整理学」である。中でも第六章の「拡散と収斂」は,高校生(特に受験生)にはとても良い題材だと思う。通常の授業や定期考査等で「収斂」に慣れた高校生に「拡散」という概念を感じてもらうことが目的である。具体的には,「拡散と収斂」を全員で一読した後,まずは個人個人で身の周りの「拡散」を考えてもらい,引き続きそれぞれが考えた「拡散」に関して,班のメンバーでディスカッションしてもらうという段取り。このことで生徒たちの中に「拡散」のリアリティが生まれてくる。その後,現代社会が抱える「答えのない問題」に向き合う際の「拡散」の重要性や,大学での学び方についても触れていくと,大学の「教育研究」にも興味を持ってくれる生徒がチラホラ出てくるという仕掛けだ。前置きが長くなったが,今回の「裏巻頭言」は,その「思考の整理学」第四章にある「ホメテヤラネバ」から引用して書いてみたい。

 この原稿を書いているのは「プラス発想は元気元気元気PART2」の開催直前のタイミングでもあるため,そのテーマにまつわるネタとして選んでみた。前回のPART1の総括では,「褒めることの難しさ」「自慢することの難しさ」「客観性の確保」の3つの観点を据えて,(一見尤もらしい)総括を行ったが,外山先生の主張は,以下の通りいたってシンプルだ。一部引用してみる。

“まったく根拠なしにほめていても,こういうウソから出たマコトがある。まして,多少とも根をもったほめことばならば,必ずピグマリオン効果をあげる。(中略)雰囲気がバカにならない。いい空気のところでないと,すぐれたアイデアを得ることは難しい。” (P.149)

“見えすいたお世辞のようなことばをきいてどうする。真実に直面せよ。そういう勇ましいことをいう人もあるが,それは超人的な勇者である。平凡な人間は,見えすいたことばでもほめられれば,力づけられる。お世辞だとわかっていても,いい気持ちになる。それが人情なのではなかろうか。” (P.150)

 ここでピグマリオン効果について触れることは割愛するが,外山先生の書かれた通り,思考はとてもデリケートである。褒めたつもりが微に入り細を穿つことが際立ちすぎて,却って逆効果になることもある。褒めることが下手な日本人だからこそ,シンプルに,考え過ぎず,自分の気持ちに素直に「褒める」ことだけで十分なのではないか。まずは率先励行。私自身も照れずに「褒める」ことを心がけたい。

(新藤 洋一)

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タグ:新藤 洋一
posted by fmics at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 巻頭言
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