イングランドの制度は、有体に言えば「出世払い」だ。返済金は、卒業後、収入が£25,000(約475万円)程度となってはじめて、給与から天引きされる(英国の物価は、日本より高い)。返済額は、月収の9%とされている。ローンを管理するSLC(Student Loan Company)のウエブサイトでは、プラン1に加入し(複数のプランが準備されている)、年収が£33,000(627万)となった場合等の事例が紹介されている。まず、月収£2,750/約52万)から定められた基準額である£2,172 (約41万)を差し引く。差が£578(約11万)となり、このうちの9%にあたる£52.02(約9,900円)が月々の返済額となる。利率は、小売物価指数によって変動する。現在は4.3%だ。
なお、「貸与プラン」にもよるが、返済開始予定日から30年経過するか、65歳に達した場合は、借入金が全額免除となる。すべての学生を対象としており、世帯の所得制限等はない。なお、上記以外に、「生活費ローン(Maintenance Loan)」も用意されている。これらの制度により、イングランドでは、「授業料を払えないため大学進学を諦める」問題に対し、機会の平等を担保しようとしている。その特徴は、返済額が、借入金ではなく、「未来の収入」に応じて決定される「所得連動型」である点だろう。もう一つは、収入が規定額に達しなければ、一定の条件下で、借入金が免除される点だ。
英国と違い、日本には、私大が多く存在し、73.8%の学生は、私大に通っている。(令和6年度学校基本調査)。「授業料を誰が負担するか」という議論では、必ずといっていいほど、「国立と私立の扱い」が論点となる。望ましいあり方を議論することは重要だが、私大に教育を依存してきた歴史と現状を基盤において、議論に臨むことが重要だろう。なお、日本でも、大学院修士相当過程の入学者を対象として、昨秋から「授業料後払い制度」が導入されている。国公立は、535,800円、私立は776,000円を上限として貸与する。その後は、イングランドのように、年収が300万円程度になるまでは毎月2,000円返済する仕組みだ。「大学の授業料無償化」の動きは、学部課程にも広がっていくだろうか、今後の動向に注目したい。
(佐藤 琢磨)

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