辻 太一朗 著、東洋経済新報社 2013年4月刊
第1章 日本の大学生は本当に「勉強しない」のか?
第2章 大学生・大学・企業 永続する「負のスパイラル」
第3章 「考える力」こそが日本を救う
第4章 「正のスパイラル」はこうして回す
巻末資料 主要大学授業ミシュラン
著者は、京都大学工学部を卒業後、(株)リクールトで採用活動を担当。その後、起業して採用コンサルティングを手がけ、2011年7月にNPO法人「大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会(略称DSS)」を設立して活動しています。
本書の前半は、日本の大学生(の勉強へのとりくみ)が世界の大学生に比して明らかに見劣りする現状を指摘し、その原因は大学教育と就職活動の関係がねじれており、企業(成績が参考にならず課外活動を中心に評価する)→学生(課外活動に力を入れ楽な授業を望む)→大学教員(授業に力を入れられない)→学生(授業に力を入れず課外活動にいそしむ)→企業…、という負のスパイラルが起きている構造的問題であると、明快に指摘しています。
この問題構造は、高等教育論や教育社会学等の研究者によっても指摘されていた事でもありますが、注目したいのは、後半の章や巻末資料にかかわる大規模な調査活動です。
企業が大学の成績を活用し、負のスパイラルを正す一助となる事を目的として、首都圏の9大学28学部に在籍する4年生約2000人を対象に、成績証明書を持参させての対面調査を実施。「考える力」を育成・評価している授業を明らかにすべく、今までに受講した授業の中で、(1)授業中に質問・ディスカッション・課題等を実施しているか、(2)授業外でも考えさせるような課題・準備等をさせているか、(3)試験・レポート・課題の内容が「考える力」のレベルで完成度が変わるものか、(4)A・B・C評価のばらつきがあるか、という点を尋ねています。
その結果によると、「考える力」を育成・評価している(と学生に認識されている)授業は、全体としては1割程度しかないものの、個々には興味深い結果が紹介されています。
大学教育をポジティブに評価・可視化いていくこのような仕組みを、大学の中から十分に創り出せていない事に忸怩たるものがありますが、的外れな就活の時期に関する議論や、一部の当事者を批判するだけの精神論とは違い、現実的な解決へと導く試みとして期待しています。
(出光 直樹)

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