その理由として、自大学の事のみならず、大学制度全体の仕組みや高等教育の意義などを受験生に説明する際に、大学院で高等教育論を専攻してきたことが、直接的に役に立つという事がまずあります。また、相談のやりとりの中で、受験生が最初に考えていた質問とは違う、本人が気づいていなかった(でも往々にして重要な)課題や方向性を見いだしてあげる事に、教育に携わるものとして、とても大切な意義を感じています。
たとえば最近、こんな事がありました。とある相談会にAO入試について聞きたいという受験生が来ました。彼女はこの3月に高校を卒業した既卒者で、昨年も横浜市立大学の一般入試を受験するも不合格となり、一浪して再度チャレンジするとのこと。
AO入試でなんとしても本学に入学したいという気持ちはとてもうれしいのですが、気持ちだけで合格できるほど本学のAO入試は簡単ではありません。どの程度の準備が出来ているのか、昨年はなぜチャレンジしなかった等の事情を聞いてみると、一途にAO入試に向けた準備を重ねてきた訳ではない様子。もちろん、ある程度の可能性があって本人の振り返りと成長につながるものであれば、一般入試の前にAO入試にチャレンジする事は、たとえ不合格になっても価値はあります。なので、今までの彼女の取り組みや志望理由などを、あれこれ聞いて方向性を一緒に考えてみたものの、どうもしっくりこない感じなのです。
そもそも横浜市大を受験する/しないを含めて、最終的には本人が決める事でありますが、彼女の場合にはAO入試と一般入試との両面作戦は中途半端になると感じ、一般入試に向けた準備に専念した方が良いと思うと率直に伝えてあげました。すると本人の口から、「一般入試での受験準備に自信がなく、そこからの逃げでAO入試を考えていました」、という言葉が出てきました。きちんと向き合うべき課題に気づいたことで、ついに彼女は一般入試に向けた教科の勉強に専念する決意を固め、迷いが吹っ切れた良い表情になってました。
一人あたり15〜20分程度の相談時間で次から次へと対応する中でのささやかな出来事ですが、この仕事をしていて、良かったと思う瞬間でした。
(出光 直樹)

タグ:出光 直樹
【巻頭言の最新記事】