2019年06月05日

シンポジウムのテーマを考えるために

 時代の変化は、私たちが思う以上に大きなうねりとなっています。「MOOC革命で日本の大学は半数が消滅する」と言われていました。わが国のように、学校歴こそが命という発想は、世界的には非主流です。MOOCのプラットフオームに「ユダシティ」があります。これまでの就活戦略がドラスティックに変わることになります。学習履歴(学位歴)の次は、修了証や資格認定で対応する、ナノ・ディグリーを重視する方向に向かっていくのではないでしょうか。世界では当たり前のスタンダートが、わが国の大学を襲うことになります。

 VUCA(ブーカ):Volatility=不安定、Uncertainty=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧、は大学界にも吹き荒れることになります。近視眼的・表層的に時代を観て、爪先立ったアクションをすれば足元をすくわれます。社会の転換期を迎える中で、各大学・短期大学が社会との契約を根本から見直し、結び直すタイミングにきていると感じます。あたらしい時代は、学生には、AI時代を意識した、美意識のある「可愛がられる力」や「教わる力」を高める教育、「必要な情報を編集する情報編集力」やAIを活用するために必要となる「課題設定力」を求めます。リベラル・アーツ分野や観察力をいかに身につけるかを本気で考えて、カリキュラムを変えることができる大学・短期大学しか残らないのではないかと思います。

 この時代の要求は、私たち大学人にとっても、変わるための努力に他なりません。法改正や規制で大学淘汰の政策誘導も図られる中で、財界が求めるエリート以外を育成するほとんどの大学・短期大学で、この転換について真剣に戦略事項として叩いているのでしょうか。変わることに対して覚悟と勇気が今こそ必要です。大学人一人ひとりが大局観を持ち、原理原則を大切にして、周りに惑わされず信念を持って生き抜かねばなりません。大学が持てる全ての資源を束ねることなく、「私は頑張っています」をいくら束ねても、この時代の波を乗り切ることはできません。

 教員と職員の優位性を問うことがいかに馬鹿げていることか。「学生教員職員三輪車論」を肝に銘じます。打上げ花火的な派手なアクションではなく、学生が着実に活動してきたことを学生とともに整理するきめ細かいサポートを地道に積み上げていくことに注力します。学生の可能性を引き出す役割分担こそが求められているのです。

 らしくしてぶるべからず、「時代を少しでも動かすために、堂々と変わり続けること」を FMICS の今年のモットーにします。時代に先回り。皆さまには、この1年間がワクワクドキドキハッピー×ハッピーに充実したものになりますことをお祈りいたします。

(高橋 真義)

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入試で「死」を考える

 1990年に始まった「大学入試センター試験」は、2020年1月の実施を最後に廃止され、2021年1月からは「大学入学共通テスト」(新テスト)が実施される。取り上げられる機会も多くなる中、2019年5月31日(金)毎日新聞「滝野隆浩の掃苔記」より『入試で「死」を考える』という記事に目が留まった。

 滝野氏が昨夏に出版した「これからの『葬儀』の話をしよう」(毎日新聞出版)が今春の江戸川学園取手中・高等学校(茨城県取手市)の入試に使用、葬儀や墓、そして死生観の変容についての本である。例えば平成期、散骨や樹木葬まで墓の代わりに認められるようになった実情など5000文字以上ある。驚いたのはそのテーマ、最後はこんな設問。〈問10「散骨ブーム」が広まった経緯を100文字以内でまとめなさい。解答には「イエ(家)制度」「自然葬」「法」の3語を入れること〉。

 滝野氏は出題した先生に会いに行き、中高一貫校と聞いてまさかと思って確認したら、なんと中学入試、この問題文に小学6年生が取り組んだ。あっけにとられながら先生に入試や国語教育のことを聞いた。今の子たちは「友情」とか「夢」とかに関する出題をしても、ほぼ完璧に答える。だからあえて「簡単には答えられない」テーマにしたかった。そうすればその子自身の考えを引き出せるし、これから先もっと知りたいと思うかもしれない。さらに先生によると国語の教科書に載る「死」をテーマにした作品は、井上ひさしさんの「握手」くらいだとか。「ナイン」という短編集(講談社文庫)に収録、児童養護施設にいたことのある「わたし」が園長だったカナダ人の修道士との対話を思い出していくストーリー。戦争中のつらい話や「先生、死ぬのは怖くありませんか」と問う場面も。修道士は亡くなり、葬儀に参列した「わたし」の思いを問う問題がテストで出たら・・・滝野氏は「小学生の私はたぶん100文字どころか言葉にできなかったろう」。これまで続いてきた人の死にまつわる儀式やしきたりが今の時代に合わなくなってきた。みんな気づいてはいるけど、どうしたらいいのかわからない。そうしたことを文章を読んだ子供たちがいつかちょっとでも思い出してくれたら嬉しいと滝野氏は結ぶ。

 関連して2019年5月25日(土)毎日新聞「土記」にて青野由利専門編集委員による『人体をコンポストに』という記事を紹介したい。墓じまい、無縁墓、合葬墓、散骨、お墓のあり方の変化を示す言葉をよく見聞きする。そうした変化は日本に特有の問題かと思っていたら、あっと驚くニュースを欧米メディアが伝えていたと青野氏。米ワシントン州が全米で初めて「遺体をコンポスト(堆肥)にすること」を合法化し、知事が法律に署名、施行は来年5月。米国では通常、遺体を保存処理してひつぎに入れて埋葬するか、火葬にするかのいずれか。コンポスト化はそのどちらでもない第3の方法として登場。提唱者として紹介されているのは、シアトルで「リコンポーズ」という会社を設立したカトリーナ・スペードさん。自然のプロセスを利用して体を土に返すこと、短期間で微生物に分解してもらおうというアイデア。では日本だったら?青野氏がスペードさんにメールで尋ねると「日本の文化にもふさわしいのでは?もちろん、人々の感じ方次第だけど」。宗教や文化だけでなく、科学や環境の視点からもお墓を考える。そんなきっかけになるかもしれないと青野氏。今回「簡単には答えられない」テーマと向き合った小学生に未来の大学受験で再度同じテーマを問いたいと思った。

(宮本 輝)

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2019年05月09日

大学教育学会第41回大会@玉川大学へのお誘い

 来る6月1日(土)と2日(日)の2日間、東京都町田市の玉川大学を会場に、大学教育学会の第41回大会が開催されます。大学教育学会については昨年の小欄でも紹介しましたが、元々1979年12月に一般教育担当の教員や組織が中心となって一般教育学会として発足し、1997年6月に大学教育学会と改称して現在に至っています。こうした背景から教育学分野の研究者のみならず文系理系の様々な分野の大学教員が参加しており、また近年は学務系の業務に関わる職員の参加も増えてきています。

 2日間にわたる大会では、まず1日目の10:00〜12:30および13:30〜15:30に、学士課程教育、教育方法・教育改善、初年次教育、情報教育・数理教育、高大連携・高大接続、学生支援、キャリア教育、教職員能力開発、大学運営といったさまざまなテーマにかかわる115件もの自由研究発表が行われます。自由研究は1件あたり質疑を含めて20分の発表時間であり、午前の時間帯では12の会場に分かれて各々最大6件、午後の時間帯では10の会場で各々最大5件の発表が行われるため、最大で11件の発表を聞くことが可能です。ちなみに、私は午前と午後の時間帯とも司会者を務めるたるめ、聞ける発表は自ずと担当する会場のものに限られますが、通常の参加者は発表毎に会場を移動して関心のある発表を聞くことができます。

 自由研究発表の後は、学会の事業報告や会長・会場校挨拶があり、16:50〜18:10には国立情報学研究所の新井紀子教授による「AI時代の高大接続改革 − 読解力調査から見る今の高校生・大学生」をテーマとした基調講演があり、その後情報交換会が行われます。

 2日目の9:30〜12:00は、参加者同士がインタラクティブに議論する「ラウンドテーブル」の時間帯で18テーマのラウンドテーブルが予定されています。この中には私が企画者の1人として参画する『実務家教員を考える120分』というテーブルや、高橋さん米田さんなどFMICSおなじみのメンバーの企画による『学生の目を輝かせる大学教育の可能性XI − しっかりと「学べる」大学、学びを「生かせる」人材育成 −』というテーブルも含まれます。

 2日目の13:00〜16:00には、「どう変わる高校教育・どう変わる大学教育 − 高大接続改革における大学教育のあり方を問う」と題したシンポジウムが開催されて、全体のプログラムが終了します。

 非会員の方も含めて大会への参加申し込みは当日でも可能ですが、5/11(土)までにオンラインで事前申し込みをし、5/18(土)までに事前支払いすると、参加費や情報交換会費が割引になりますので、詳細はぜひWebサイトをご覧ください。

(出光 直樹)

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食にみるジョブズの思い〜「食」にも求めた創造性

 史上初の大型連休が終わり今週は令和の仕事始め・学び始め、連休中は授業実施のため出勤、会報『BIG EGG』の「AI入門講座」を読み返しながら、AIアレルギーを払拭する兆しとなりそうな記事(2019年3月26日(火)朝日新聞「ネット点描」尾形聡彦氏)を思い出した。尾形氏は2002〜2005年に米サンノゼ特派員としてシリコンバレーを取材、以後足かけ20年近い取材で見えてきたのは、技術革新を支える人々の意欲をアナログに刺激しようとする工夫だという。

 2003年頃のアップルの社食は石窯のあるイタリアンから職人が握る寿司まで地域一の有名店がずらり、しかも安いのに驚いたとのこと。一時は追放されていたスティーブ・ジョブズ氏が戻った際、社食の低水準さに怒り、「創造的な環境でしか、創造的な製品は生まれない」と高級路線に全面改装したのだという。

 一方、15年前のグーグルの社内は、食事は無料で簡単に済ませられ、若者が技術革新に邁進する環境が整っていた。先日、今は巨大になったグーグル本社を尾形氏が訪ねると、社食は世界的企業らしくしゃれていたが、ヘルシーな食事を無料ですぐに食べられるという基本コンセプトは以前と同じ、ホタテ入りの寿司の太巻きを手に若い技術者が熱心に議論していたとのこと。

 社食に込められた経営者のメッセージは、その後のIT業界での両者のプレゼンスに具現化されていったように感じるという。アップルは洗練され高級なiPhoneを生み出し、グーグルはエンジニアが寝る間を惜しんで開発した革新的技術によりネット業界を席巻していった。社食のアナログな改善は、やがて社の方向性の象徴となり、デジタル覇権を争う人材を育てた。日本でもタニタなど社食で有名な企業はあるが、「食」で経営者が強いメッセージを発している企業はどれだけあるだろう。「イノベーションを!」を社員にお題目を唱える前に、日本の経営者もジョブズのように胃袋から伝わる地道で深いメッセージで、15年先のネット覇権を目指してみてはどうだろうかと尾形氏は提言する。

 最後に兆しその2としてご紹介。「パンダ サル バナナ」。この3つの単語から近い関係の2つを選べ―こう聞かれたら、あなたはどの単語を選ぶだろうか。この質問を米国人と中国人の大学生を対象に行った心理学者の実験がある。多かったのは米国人では「パンダ サル」、中国人は「サル バナナ」だった。前者は動物という「分類」を、後者は「サルはバナナを食べる」という「関係」を重視した(ニスベット著『木を見る西洋人 森を見る東洋人』)。西洋人は分析的かつ論理的、東洋人は物事の具体的関係性を重視するとの説を裏付けるデータである(2019年5月8日(水)毎日新聞「余録」より抜粋)。あなたはどの単語を選ぶだろうか?

(宮本 輝)

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2019年04月02日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <後編>

<中編から>

 横浜市立大学では私が着任して以降、様々な入試の出願要件として英語資格を求めるように整備してきました。2006年度入試までは海外帰国生と外国人留学生の入試においてのみ一定水準以上の英語資格を求めていたものを、徐々にその適応範囲を広げていきました。

 2015年度入試以降は、センター試験を課す一般選抜と公募推薦入試以外の全ての入試区分において、最低でも英検準2級程度(他にTOEFL、TOEIC、GTEC、IELTSも可)の英語資格を求めるようになり、次の2020年度入試からは、最低でも英検2級やTOEIC(L&R)500などのスコアが無いと応募出来ないようになっています。ただしその対象となる資格は、「大学入試英語成績提供システム」の参加要件とは異なり、4技能の検定に限定されることはなく、また資格の受検日も大学受験年度の4月〜10月ではなく、大学入学前3年以内(現役高校生であれば高校入学以降)であれば良いと広めに設定しています。

 横浜市立大学において入試の出願要件に英語資格を設定するようになった背景には、2005年度以降のり全学必修英語科目において、「TOEFL」を単位認定・進級要件に設定した事があります。団体特別受験のTOEFL-ITP(PBTと同等)を学内で定期的に実施し、基本的に500のスコアに到達しないと必修英語科目の単位認定がされずに再履修となり、その単位修得が学部によって2年次または3年次の進級要件となるという厳しいルールです。

 英語資格の提出を求めるに際して、当初は級やスコアを不問として提出を義務づける事から始め、徐々にその水準を上げてきましたが、英検2級程度の資格を有していれば、単位修得要件のTOEFL-ITP500のスコアをスムーズに達成できる事や、英語以外の学習する力量も高い傾向にあることが見て取れます。また海外帰国生の入試になると、TOEFL-ITP500相当のより高いレベルの資格を要件としていますが、2技能のTOEIC(L&R)よりも、4技能のTOEFL-iTPやIELTSで高いスコアを持っている者の方が、日本語での論述試験のパフォーマンスも高い傾向が見られます。しかしマジョリティーである日本の高校出身者の場合は、受検料の高価な4技能試験でなくとも、TOEIC(L&R)などの比較的安価で受けやすい2技能の試験で充分なのです。

 この度、横浜市立大学も2021年度からの一般選抜においては「大学入試英語成績提供システム」を活用する基本方針を発表しましたが、それ以外の入試においては、新システムの資格と共に従前からの英語資格にも対応していく予定です。今回の高大接続改革において、負担の大きい4技能試験のみによって「大学入試英語成績提供システム」が制度化されてしまった事は、現場の人間として本当に残念でなりません。

(出光 直樹)

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大クリエーティブ力生かす人事

 FMICS BOOK PARTYがスタート、未だ参加できていないが指定図書は必ず購入している。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周著)を読み返しながら、2018年7月10日(火)朝日新聞「波問風問」で編集員の多賀谷克彦氏の「マツダの挑戦」という記事を思い出した。

 インタビューした人の言葉で記憶に残る一言として、当時マツダのデザイン本部長だった前田育男さんの言葉「次の仕事は、彼らが公平な評価基準で昇格する仕組みをつくることです」を紹介。マツダは「魂動(こどう)」というデザイン哲学を掲げ、次々と格好いい自動車を出し、その取り組みを聞いていたときのことだった。前田さんが言う「彼ら」とは、デザイナー、粘土模型をつくるクレイモデラーらクリエーティブ人材。前田さんは「彼らの昇格試験はマネジメント力が求められる一般社員と同じ。彼らの才能は評価されにくい」と話していた。

 それから4年、評価基準は大きく変わり、幹部社員への昇格試験はマネジメント系とは異なる独自の基準が設けられた。感知力、創造力、表現力などのほか、情熱・志というのもあり、幹部社員の職位もマネジメント系と同様に4段階が設けられた。各段階の処遇も対等、幹部社員に昇格したクレイモデラーは敬意を表して「匠(たくみ)モデラー」とも呼ばれる。人事担当の高村勝彦さんは「彼らの頭上にあったガラスの天井が抜けた」という。

 職場の空気も変わり、かつては腕のいいモデラーほど独立したり他社へ移ったりしていたのが激減、いい人材が採用できるようになったという。また、モデラーはデザイナーが描いた絵を粘土を使い黙々と立体にするだけだったが、モデラーも一緒になって意見を言い合えるようになった。

 前田さんの後任、デザイン本部長の中牟田泰さんは「各人の強みを見いだし、伸ばすようにしている」と言う。平均的に仕事をこなす人材よりとがった人材を育てやすい環境になり、結果、人材が育ち、マツダ車は数々の世界的な賞を受けるようになった。影響は社内外に広がり、金型をつくる工程では粘土製のクレイモデルを忠実に再現しようと他にはない砥石を開発した。「じゃあ、経営のスペシャリストって何だ」と人材評価の議論はいい意味で逆流している。

 今ほどデザインとビジネスが結びつけられて語られることはなかっただろう。ただ、マツダのような人事・評価制度は聞いたことがない。デザイン重視といっても、製品の見た目を少し変えてみるだけでは成果はない。バブル崩壊後の家電のように、消費者ニーズとは縁遠い過剰な機能を求めたり、低価格路線を走ってきたりした経営では、クリエーティブ人材による改革は難しいだろう。マツダが次に挑戦するのは「日本の美」という。余計なものを徹底してそぎ落とす「引き算の美学」である。4月1日新年度スタート、「魂動(こどう)」スタート!

(宮本 輝)

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2019年02月26日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <中編>

<前編から>

 2018年12月28日付で大学入試センターから公表された「『大学入試英語成績提供システム』の概要」は、(1)対象となる受験生に対する共通IDの発行、(2)各英語資格・検定試験の実施主体から大学入試センターへの成績の送付、そして(3)大学入試センターからこのシステムを利用する各大学への成績提供、等の概要を示しています。

 この成績提供システムは、2020年度(2021年4月の大学入学)より運用を開始し、2020年4月〜12月までに受検した資格・検定試験が導入時の対象となります。そのため、共通IDの発行は、それに先立つ前年度の11月頃に申込み受付をして12月〜1月頃を目途に発行するとしています。その際の申込みは、現行のセンター試験の出願と同様に、高校等の在学者については在籍校で申込書を取りまとめの上、一括して申込みを行い、既卒者等については個別に直接センターに申込みを行うこととしています。また所定の申込期間以降でも、翌年度(大学受験年度)の9月頃までは追加申込・発行に対応する予定としています。

 共通IDの有効期間は2年間(大学受験の2年度分)とする予定のため、このシステムを利用する最初の世代となる2021年3月卒業予定の高校生が、もし1年浪人して翌年度に大学を受験する場合は、再度のID発行の申し込みをする必要はありません。

 共通IDの発行を受けた受験生は、成績提供の対象となる英語資格・検定試験の受検を申込む際にこの共通IDを記すことにより、大学入試センターを経由して成績が大学に通知されることになります。大学に通知されるのは、受験年度の4月〜12月までに受検したうちの2回までであり、仮に3回以上共通IDを用いて申込みをしても、センターには3件以上の成績が届くものの、大学に成績が通知されるのは、試験実施日の早い順に2件までとなります。

 各大学は、大学入学共通テストを利用しない入学者選抜においても、この成績提供システムを利用する事が可能であり、また実施時期の早い「総合型選抜」(現行のAO入試に相当:9月以降に実施)や、「学校推薦型選抜」(現行の推薦入試に相当:11月以降に実施)でも利用することが可能とされています。

 つまり国公立大学の一般入試だけでなく、私立大学の一般入試や、AO入試・推薦入試を含んだ、ありとあらゆる入試で活用出来ることも想定して、共通IDを介したシステムが構築されようとしており、仕組みそのものはそれなりに便利そうではありますが、入学者選抜における英語資格の活用という点において私の立場からは、残念ながらこのシステムだけでは用が足りないのです。

<後編へ>
(出光 直樹)

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カリスマの要らない組織 その3

第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会は明治大学が22季ぶりに優勝した。昨季19年ぶりの決勝で帝京大学に1点差で敗れ、昨シーズンのチームを超える、準優勝という結果を超え るとういう意味の「Exceed」をチームスローガンに「Plus 1・Hungry」という気持ちを部員全員が持ち、就任1年目の田中澄憲監督とチームを作り上げた。田中監督は1996年度最後の優勝時のメンバー、2017年ヘッドコーチを務め、2018年4月に監督に就任した。

NHKクローズアップ現代+(2019年1月16日放送)では「日本一監督の"イマドキ若者"育成術〜明大ラグビー部 勝者の組織〜」)として今どきの若者のモチベーションを高め、結果を出す組織に作り替える大改革の舞台裏に1年間密着してきた。

 チームの改革が始まったのは2017年3月、最初のミーティングで2シーズン前の負けている試合中にダラダラ歩いていた選手たちの映像を見せたという。「ピンチの場面で歩いている選手が何人もいたシーンなんです。ゲームに勝ちたければ絶対に歩かないですよね。日本一をマインドセットする心構えが一番大事だと、ミーティングで話しました。 僕が日本一を目指すのではなく、学生が本気で目指さなかったらどれだけ練習してもきつい練習はできないと思ったんです」と田中監督。

しかし、グラウンドで指導を始めると、今どきの若者が抱えるさまざまな課題が見えてきた。大事な場面での選手同士のコミュニケーション不足、田中監督曰く「練習中、本当におとなしいんです。ミスが起きても、そのまま終わってしまう。相手が嫌な思いをするかもしれない、腹を割って話し合うことがない。傷つくかもしれないと、そういう部分があるのかなあ」。

 実は91人の選手一人ひとりとメールを通して会話をしているという。

そして精神論ではなく選手の“納得感”を大切にした。なぜ厳しい練習が必要かを選手に理解させるために活用したのがGPSデータ、選手各人に装着して試合中の選手の運動量の推移がグラフで記録され、さらに全力で走った距離まで表示される。このデータをもとに、スタミナをつける練習では1.2倍の負荷をかけたランニングの練習メニューを設定して取り組んだ。1年後、ほぼ全員がこのメニューをクリアし、フィジカル面で飛躍的に向上したという。

 さらに 一見ラグビーとは無関係のよう「クラウドコーチング」というスマホのアプリを使った生活指導を取り入れた。選手のスマホには「ゴミ拾い」「廊下の整理」「自分が使ったものを元に戻す」など、当たり前にやるべき目標を設定し、実行できたかどうか毎日振り返らせた。田中監督は「人として成長すれば、ラグビーにもついてくる。良い人間が増えれば、いい組織になる」と考えた。

 今シーズンの明治のテーマは「史上最強ではなく最高、ベストなチームを作ろう」だった。ひとつの目標はもちろん日本一、優勝することだった。そしてもうひとつの目標が「チャンピオンチームにふさわしい、ファンやOBやOGといった人から愛される、誇りを持てる集団になろう」だった。田中監督は、サントリーからの出向であり、いつか戻らなければいけない時期が来る。ただ田中監督は、母校が強くなり、後輩たちの成長していく姿を目にすることが何よりの喜びであり、「明治ラグビー部が常に日本一を狙うチームとなり、誰が監督になってもチームが強くなる文化をつくるのが仕事」と言いきる。

(宮本 輝)

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2019年01月25日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <前編>

 去る1月19日(土)と20日(日)に実施された大学入試センター試験は、全国的に天候に恵まれたこともあり、交通機関の乱れによるトラブルは少なかったようですが、インフルエンザについては“危機的”と報道されたように、例年以上の猛威であったことが、実施の現場では実感していました。2600名程の志願者を受け入れる横浜市立大学では、病気や事故等による追試験の申請者は、例年2名程度であるものが、今年は4倍程にもなり、実施側の教職員や学生補助員の病欠者もそれと同じように続出し、なかなか大変でありました。

 さてこの「大学入試センター試験」は、2年後の2021年度からは「大学入学共通テスト」に衣替えとなります。当初は、複数回実施などの大幅な変更案が議論されてきましたが、結局のところ現実的な線に落ち着き、現行のセンター試験や前身の共通一次試験と同様に、冬の悪天候やインフルエンザのリスクの高い1月中の土日に2日間の日程で実施することには、変わりはありません。

 1年程前の小欄「『高大接続改革』の忘れもの」でもご紹介したが、中央教育審議会の「高大接続改革答申」(2014年12月)、文部科学大臣決定の「高大接続改革実行プラン」(2015年1月)、高大システム改革会議の「最終報告」(2016年3月)までの議論の内容と、文部科学省が2017年7月13日に発表した「高大接続改革の実施方針等の策定について」を見比べると、大風呂敷な議論が些末な形に収斂した様子が見てとれます。

 今回の「大学入学共通テスト」への衣替えで加えられる主な変更点は、記述式問題の導入と、英語4技能評価の導入です。記述式問題については、国語と数学(数学T、数学TA)において従前のマークシート式問題に追加する形で実施され、それぞれ試験時間が、国語80分→100分程度、数学60分→70分程度に延長されることになります。

 英語4技能評価については、共通テストとして実施するのではなく、民間事業者等により実施されている資格・検定試験を活用する形で導入が図られます。これについて当初は、共通テストでの英語の出題を一切取りやめ、資格・検定試験のみを活用する案もありましたが、2020 2021年度〜2023 2024年度入試の4年間は、共通テストでの出題も引き続き実施する事になりました。共通テストの枠組みで活用される英語の資格・検定試験は、大学入試センターが定めた「大学入試英語成績提供システム 参加要件」(2017年11月)を満たしたと確認された資格・検定試験が対象となり、高校3年生の4月から12月までに受検した試験結果のうち2つまでが、大学入試センターを通じて各大学に通知される事になります。そしてこの具体的な運用方法や実施に向けたスケジュールの概要(2018年12月28日)が、ようやく公表されました。

<中編へ>
(出光 直樹)

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カリスマの要らない組織 その2

 第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会準決勝(1月2日、東京・秩父宮ラグビー場)で帝京大学は天理大学に敗れ大学選手権10連覇を逃した。2018年12月28日(金)日本経済新聞オピニオン欄で同紙コメンテーター・中山淳史氏が「カリスマのいらない組織」を論じていたのを思い出し、再度読み返してみた。

 帝京大学の岩出雅之監督は「選手が自律的に考え、自ら成長する集団をめざした」と著書で書いており、それより前に「自律的集団」づくりで注目され、同氏にも影響を与えたと考えられる監督が中竹竜二・元早稲田大学ラグビー部監督(現日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)である。指導法の根幹にあったのは「フォロワーシップ(追随者精神)」という精神、リーダーシップの逆である。

 ラグビーとはそもそも「ワンフォーオール、オールフォーワン(一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために)」を信条とするスポーツ。15人の選手一人一人が自らのポジションで役割を明確に意識し、チームの勝利のために最善を尽くす。それが徹底されるのであれば、カリスマ的な指導者やキャプテンは不在でもいいとの考え方であった。

 中竹氏に話を聞いたところ、フォロワーシップとは一般に忠実で献身的な姿勢や態度を選手に求めることだと思われがちだが、同氏の場合は「リーダーである自分に向けた言葉でもあった」と話す。

 つまり、フォロワーには選手と指導者という2種類があり、監督は「リーダーでありながら周りを『支える者』であり、フォロワーとしての選手全員をリーダーのように行動できるよう導く責任を負う」と言う。この話は企業経営に通じるとして昨今の不祥事や事件を踏まえ当事者の企業経営者はリーダーである一方、よきフォロワーだったのだろうかと問う。

 さらに企業内のフォロワーシップを長年研究する近畿大学の松山一紀教授によると、社員には経営層に対して意見を積極的に言う「プロアクティブ型」と、」意見はあるものの経営者に促されないと言えない「能動的忠実型」、全く意見を言わない「受動的忠実型」の3タイプがあるという。

 世界で比べると、プロアクティブ型は欧米で全体の約3割を占める一方、日本は16%にとどまり、日本は積極的に意見を言わない能動型忠実型と受動的忠実型が合わせて8割以上に達するので、「経営者の誤りを正すような自浄作用が働きにくい構造になっている」(松山氏)と言う。

 一方で不祥事が多かったスポーツ界では一足先にフォロワーシップやオーガニゼーショナル・シチズンシップ・ビヘイビア(OCB)という考え方を参考に再建が始まっているという。OCBは日本語で「組織市民活動」のことを言う。例えば、世界が称賛した日本人サポーターによるサッカー場でのゴミ拾いなど率先的な行動、奉仕のこと。強いリーダーシップに再建、再生を託すより、まずはフォロワーがそれぞれ自主性と指導力を磨くことを新年へ向けて提案している。(次号へ続く)

(宮本 輝)

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