2019年04月02日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <後編>

<中編から>

 横浜市立大学では私が着任して以降、様々な入試の出願要件として英語資格を求めるように整備してきました。2006年度入試までは海外帰国生と外国人留学生の入試においてのみ一定水準以上の英語資格を求めていたものを、徐々にその適応範囲を広げていきました。

 2015年度入試以降は、センター試験を課す一般選抜と公募推薦入試以外の全ての入試区分において、最低でも英検準2級程度(他にTOEFL、TOEIC、GTEC、IELTSも可)の英語資格を求めるようになり、次の2020年度入試からは、最低でも英検2級やTOEIC(L&R)500などのスコアが無いと応募出来ないようになっています。ただしその対象となる資格は、「大学入試英語成績提供システム」の参加要件とは異なり、4技能の検定に限定されることはなく、また資格の受検日も大学受験年度の4月〜10月ではなく、大学入学前3年以内(現役高校生であれば高校入学以降)であれば良いと広めに設定しています。

 横浜市立大学において入試の出願要件に英語資格を設定するようになった背景には、2005年度以降のり全学必修英語科目において、「TOEFL」を単位認定・進級要件に設定した事があります。団体特別受験のTOEFL-ITP(PBTと同等)を学内で定期的に実施し、基本的に500のスコアに到達しないと必修英語科目の単位認定がされずに再履修となり、その単位修得が学部によって2年次または3年次の進級要件となるという厳しいルールです。

 英語資格の提出を求めるに際して、当初は級やスコアを不問として提出を義務づける事から始め、徐々にその水準を上げてきましたが、英検2級程度の資格を有していれば、単位修得要件のTOEFL-ITP500のスコアをスムーズに達成できる事や、英語以外の学習する力量も高い傾向にあることが見て取れます。また海外帰国生の入試になると、TOEFL-ITP500相当のより高いレベルの資格を要件としていますが、2技能のTOEIC(L&R)よりも、4技能のTOEFL-iTPやIELTSで高いスコアを持っている者の方が、日本語での論述試験のパフォーマンスも高い傾向が見られます。しかしマジョリティーである日本の高校出身者の場合は、受検料の高価な4技能試験でなくとも、TOEIC(L&R)などの比較的安価で受けやすい2技能の試験で充分なのです。

 この度、横浜市立大学も2021年度からの一般選抜においては「大学入試英語成績提供システム」を活用する基本方針を発表しましたが、それ以外の入試においては、新システムの資格と共に従前からの英語資格にも対応していく予定です。今回の高大接続改革において、負担の大きい4技能試験のみによって「大学入試英語成績提供システム」が制度化されてしまった事は、現場の人間として本当に残念でなりません。

(出光 直樹)

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大クリエーティブ力生かす人事

 FMICS BOOK PARTYがスタート、未だ参加できていないが指定図書は必ず購入している。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周著)を読み返しながら、2018年7月10日(火)朝日新聞「波問風問」で編集員の多賀谷克彦氏の「マツダの挑戦」という記事を思い出した。

 インタビューした人の言葉で記憶に残る一言として、当時マツダのデザイン本部長だった前田育男さんの言葉「次の仕事は、彼らが公平な評価基準で昇格する仕組みをつくることです」を紹介。マツダは「魂動(こどう)」というデザイン哲学を掲げ、次々と格好いい自動車を出し、その取り組みを聞いていたときのことだった。前田さんが言う「彼ら」とは、デザイナー、粘土模型をつくるクレイモデラーらクリエーティブ人材。前田さんは「彼らの昇格試験はマネジメント力が求められる一般社員と同じ。彼らの才能は評価されにくい」と話していた。

 それから4年、評価基準は大きく変わり、幹部社員への昇格試験はマネジメント系とは異なる独自の基準が設けられた。感知力、創造力、表現力などのほか、情熱・志というのもあり、幹部社員の職位もマネジメント系と同様に4段階が設けられた。各段階の処遇も対等、幹部社員に昇格したクレイモデラーは敬意を表して「匠(たくみ)モデラー」とも呼ばれる。人事担当の高村勝彦さんは「彼らの頭上にあったガラスの天井が抜けた」という。

 職場の空気も変わり、かつては腕のいいモデラーほど独立したり他社へ移ったりしていたのが激減、いい人材が採用できるようになったという。また、モデラーはデザイナーが描いた絵を粘土を使い黙々と立体にするだけだったが、モデラーも一緒になって意見を言い合えるようになった。

 前田さんの後任、デザイン本部長の中牟田泰さんは「各人の強みを見いだし、伸ばすようにしている」と言う。平均的に仕事をこなす人材よりとがった人材を育てやすい環境になり、結果、人材が育ち、マツダ車は数々の世界的な賞を受けるようになった。影響は社内外に広がり、金型をつくる工程では粘土製のクレイモデルを忠実に再現しようと他にはない砥石を開発した。「じゃあ、経営のスペシャリストって何だ」と人材評価の議論はいい意味で逆流している。

 今ほどデザインとビジネスが結びつけられて語られることはなかっただろう。ただ、マツダのような人事・評価制度は聞いたことがない。デザイン重視といっても、製品の見た目を少し変えてみるだけでは成果はない。バブル崩壊後の家電のように、消費者ニーズとは縁遠い過剰な機能を求めたり、低価格路線を走ってきたりした経営では、クリエーティブ人材による改革は難しいだろう。マツダが次に挑戦するのは「日本の美」という。余計なものを徹底してそぎ落とす「引き算の美学」である。4月1日新年度スタート、「魂動(こどう)」スタート!

(宮本 輝)

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2019年02月26日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <中編>

<前編から>

 2018年12月28日付で大学入試センターから公表された「『大学入試英語成績提供システム』の概要」は、(1)対象となる受験生に対する共通IDの発行、(2)各英語資格・検定試験の実施主体から大学入試センターへの成績の送付、そして(3)大学入試センターからこのシステムを利用する各大学への成績提供、等の概要を示しています。

 この成績提供システムは、2020年度(2021年4月の大学入学)より運用を開始し、2020年4月〜12月までに受検した資格・検定試験が導入時の対象となります。そのため、共通IDの発行は、それに先立つ前年度の11月頃に申込み受付をして12月〜1月頃を目途に発行するとしています。その際の申込みは、現行のセンター試験の出願と同様に、高校等の在学者については在籍校で申込書を取りまとめの上、一括して申込みを行い、既卒者等については個別に直接センターに申込みを行うこととしています。また所定の申込期間以降でも、翌年度(大学受験年度)の9月頃までは追加申込・発行に対応する予定としています。

 共通IDの有効期間は2年間(大学受験の2年度分)とする予定のため、このシステムを利用する最初の世代となる2021年3月卒業予定の高校生が、もし1年浪人して翌年度に大学を受験する場合は、再度のID発行の申し込みをする必要はありません。

 共通IDの発行を受けた受験生は、成績提供の対象となる英語資格・検定試験の受検を申込む際にこの共通IDを記すことにより、大学入試センターを経由して成績が大学に通知されることになります。大学に通知されるのは、受験年度の4月〜12月までに受検したうちの2回までであり、仮に3回以上共通IDを用いて申込みをしても、センターには3件以上の成績が届くものの、大学に成績が通知されるのは、試験実施日の早い順に2件までとなります。

 各大学は、大学入学共通テストを利用しない入学者選抜においても、この成績提供システムを利用する事が可能であり、また実施時期の早い「総合型選抜」(現行のAO入試に相当:9月以降に実施)や、「学校推薦型選抜」(現行の推薦入試に相当:11月以降に実施)でも利用することが可能とされています。

 つまり国公立大学の一般入試だけでなく、私立大学の一般入試や、AO入試・推薦入試を含んだ、ありとあらゆる入試で活用出来ることも想定して、共通IDを介したシステムが構築されようとしており、仕組みそのものはそれなりに便利そうではありますが、入学者選抜における英語資格の活用という点において私の立場からは、残念ながらこのシステムだけでは用が足りないのです。

<後編へ>
(出光 直樹)

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カリスマの要らない組織 その3

第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会は明治大学が22季ぶりに優勝した。昨季19年ぶりの決勝で帝京大学に1点差で敗れ、昨シーズンのチームを超える、準優勝という結果を超え るとういう意味の「Exceed」をチームスローガンに「Plus 1・Hungry」という気持ちを部員全員が持ち、就任1年目の田中澄憲監督とチームを作り上げた。田中監督は1996年度最後の優勝時のメンバー、2017年ヘッドコーチを務め、2018年4月に監督に就任した。

NHKクローズアップ現代+(2019年1月16日放送)では「日本一監督の"イマドキ若者"育成術〜明大ラグビー部 勝者の組織〜」)として今どきの若者のモチベーションを高め、結果を出す組織に作り替える大改革の舞台裏に1年間密着してきた。

 チームの改革が始まったのは2017年3月、最初のミーティングで2シーズン前の負けている試合中にダラダラ歩いていた選手たちの映像を見せたという。「ピンチの場面で歩いている選手が何人もいたシーンなんです。ゲームに勝ちたければ絶対に歩かないですよね。日本一をマインドセットする心構えが一番大事だと、ミーティングで話しました。 僕が日本一を目指すのではなく、学生が本気で目指さなかったらどれだけ練習してもきつい練習はできないと思ったんです」と田中監督。

しかし、グラウンドで指導を始めると、今どきの若者が抱えるさまざまな課題が見えてきた。大事な場面での選手同士のコミュニケーション不足、田中監督曰く「練習中、本当におとなしいんです。ミスが起きても、そのまま終わってしまう。相手が嫌な思いをするかもしれない、腹を割って話し合うことがない。傷つくかもしれないと、そういう部分があるのかなあ」。

 実は91人の選手一人ひとりとメールを通して会話をしているという。

そして精神論ではなく選手の“納得感”を大切にした。なぜ厳しい練習が必要かを選手に理解させるために活用したのがGPSデータ、選手各人に装着して試合中の選手の運動量の推移がグラフで記録され、さらに全力で走った距離まで表示される。このデータをもとに、スタミナをつける練習では1.2倍の負荷をかけたランニングの練習メニューを設定して取り組んだ。1年後、ほぼ全員がこのメニューをクリアし、フィジカル面で飛躍的に向上したという。

 さらに 一見ラグビーとは無関係のよう「クラウドコーチング」というスマホのアプリを使った生活指導を取り入れた。選手のスマホには「ゴミ拾い」「廊下の整理」「自分が使ったものを元に戻す」など、当たり前にやるべき目標を設定し、実行できたかどうか毎日振り返らせた。田中監督は「人として成長すれば、ラグビーにもついてくる。良い人間が増えれば、いい組織になる」と考えた。

 今シーズンの明治のテーマは「史上最強ではなく最高、ベストなチームを作ろう」だった。ひとつの目標はもちろん日本一、優勝することだった。そしてもうひとつの目標が「チャンピオンチームにふさわしい、ファンやOBやOGといった人から愛される、誇りを持てる集団になろう」だった。田中監督は、サントリーからの出向であり、いつか戻らなければいけない時期が来る。ただ田中監督は、母校が強くなり、後輩たちの成長していく姿を目にすることが何よりの喜びであり、「明治ラグビー部が常に日本一を狙うチームとなり、誰が監督になってもチームが強くなる文化をつくるのが仕事」と言いきる。

(宮本 輝)

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2019年01月25日

「大学入試英語成績提供システム」の課題 <前編>

 去る1月19日(土)と20日(日)に実施された大学入試センター試験は、全国的に天候に恵まれたこともあり、交通機関の乱れによるトラブルは少なかったようですが、インフルエンザについては“危機的”と報道されたように、例年以上の猛威であったことが、実施の現場では実感していました。2600名程の志願者を受け入れる横浜市立大学では、病気や事故等による追試験の申請者は、例年2名程度であるものが、今年は4倍程にもなり、実施側の教職員や学生補助員の病欠者もそれと同じように続出し、なかなか大変でありました。

 さてこの「大学入試センター試験」は、2年後の2021年度からは「大学入学共通テスト」に衣替えとなります。当初は、複数回実施などの大幅な変更案が議論されてきましたが、結局のところ現実的な線に落ち着き、現行のセンター試験や前身の共通一次試験と同様に、冬の悪天候やインフルエンザのリスクの高い1月中の土日に2日間の日程で実施することには、変わりはありません。

 1年程前の小欄「『高大接続改革』の忘れもの」でもご紹介したが、中央教育審議会の「高大接続改革答申」(2014年12月)、文部科学大臣決定の「高大接続改革実行プラン」(2015年1月)、高大システム改革会議の「最終報告」(2016年3月)までの議論の内容と、文部科学省が2017年7月13日に発表した「高大接続改革の実施方針等の策定について」を見比べると、大風呂敷な議論が些末な形に収斂した様子が見てとれます。

 今回の「大学入学共通テスト」への衣替えで加えられる主な変更点は、記述式問題の導入と、英語4技能評価の導入です。記述式問題については、国語と数学(数学T、数学TA)において従前のマークシート式問題に追加する形で実施され、それぞれ試験時間が、国語80分→100分程度、数学60分→70分程度に延長されることになります。

 英語4技能評価については、共通テストとして実施するのではなく、民間事業者等により実施されている資格・検定試験を活用する形で導入が図られます。これについて当初は、共通テストでの英語の出題を一切取りやめ、資格・検定試験のみを活用する案もありましたが、2020 2021年度〜2023 2024年度入試の4年間は、共通テストでの出題も引き続き実施する事になりました。共通テストの枠組みで活用される英語の資格・検定試験は、大学入試センターが定めた「大学入試英語成績提供システム 参加要件」(2017年11月)を満たしたと確認された資格・検定試験が対象となり、高校3年生の4月から12月までに受検した試験結果のうち2つまでが、大学入試センターを通じて各大学に通知される事になります。そしてこの具体的な運用方法や実施に向けたスケジュールの概要(2018年12月28日)が、ようやく公表されました。

<中編へ>
(出光 直樹)

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カリスマの要らない組織 その2

 第55回全国大学ラグビーフットボール選手権大会準決勝(1月2日、東京・秩父宮ラグビー場)で帝京大学は天理大学に敗れ大学選手権10連覇を逃した。2018年12月28日(金)日本経済新聞オピニオン欄で同紙コメンテーター・中山淳史氏が「カリスマのいらない組織」を論じていたのを思い出し、再度読み返してみた。

 帝京大学の岩出雅之監督は「選手が自律的に考え、自ら成長する集団をめざした」と著書で書いており、それより前に「自律的集団」づくりで注目され、同氏にも影響を与えたと考えられる監督が中竹竜二・元早稲田大学ラグビー部監督(現日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)である。指導法の根幹にあったのは「フォロワーシップ(追随者精神)」という精神、リーダーシップの逆である。

 ラグビーとはそもそも「ワンフォーオール、オールフォーワン(一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために)」を信条とするスポーツ。15人の選手一人一人が自らのポジションで役割を明確に意識し、チームの勝利のために最善を尽くす。それが徹底されるのであれば、カリスマ的な指導者やキャプテンは不在でもいいとの考え方であった。

 中竹氏に話を聞いたところ、フォロワーシップとは一般に忠実で献身的な姿勢や態度を選手に求めることだと思われがちだが、同氏の場合は「リーダーである自分に向けた言葉でもあった」と話す。

 つまり、フォロワーには選手と指導者という2種類があり、監督は「リーダーでありながら周りを『支える者』であり、フォロワーとしての選手全員をリーダーのように行動できるよう導く責任を負う」と言う。この話は企業経営に通じるとして昨今の不祥事や事件を踏まえ当事者の企業経営者はリーダーである一方、よきフォロワーだったのだろうかと問う。

 さらに企業内のフォロワーシップを長年研究する近畿大学の松山一紀教授によると、社員には経営層に対して意見を積極的に言う「プロアクティブ型」と、」意見はあるものの経営者に促されないと言えない「能動的忠実型」、全く意見を言わない「受動的忠実型」の3タイプがあるという。

 世界で比べると、プロアクティブ型は欧米で全体の約3割を占める一方、日本は16%にとどまり、日本は積極的に意見を言わない能動型忠実型と受動的忠実型が合わせて8割以上に達するので、「経営者の誤りを正すような自浄作用が働きにくい構造になっている」(松山氏)と言う。

 一方で不祥事が多かったスポーツ界では一足先にフォロワーシップやオーガニゼーショナル・シチズンシップ・ビヘイビア(OCB)という考え方を参考に再建が始まっているという。OCBは日本語で「組織市民活動」のことを言う。例えば、世界が称賛した日本人サポーターによるサッカー場でのゴミ拾いなど率先的な行動、奉仕のこと。強いリーダーシップに再建、再生を託すより、まずはフォロワーがそれぞれ自主性と指導力を磨くことを新年へ向けて提案している。(次号へ続く)

(宮本 輝)

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2019年01月08日

『ごみ収集という仕事 ― 清掃車に乗って考えた地方自治』


 藤井 誠一郎 著 コモンズ(2018/05)
プロローグ 現場主義を貫く
第1章 初めてのごみ収集
第2章 研究者が体験した収集現場
第3章 多様な仕事
第4章 委託の現場
第5章 清掃行政の展望
 
 本書は、大東文化大学法学部政治学科の専任教員の著者が、2016年6月〜2017年3月にかけて、のべ24日間にわたって行った東京都新宿区での清掃業務の体験調査により、その現場の奥深い実態や課題、そこで働く清掃職員の真摯な仕事ぶりを記した労作です。

 第1章では、運転手と2人の作業員が乗り込む小型プレス車による基本的な1日のごみ収集作業の流れを、著者の実体験により紹介するとともに、フィールドとなった新宿区の清掃行政の概観しています。続いて第2章では、過酷な炎天下での収集作業、排出(分別)ルールが守られていないごみや繁忙期の対応、狭小路地での収集作業、福祉サービスとしての訪問収集、危険の伴う不燃ごみの収集と選別、無法地帯と化す新宿2丁目、災害時の応援、といった様々な収集現場の様子と職人的な仕事ぶりが紹介されています。また第3章では、独自のノウハウが必要な収集車の整備、ルールを守らない住民や事業者に対する清掃指導、小学校・幼稚園等での環境教育、苦情処理などの収集業務以外の多様な仕事、女性職員の活躍とその意義(清掃業務への偏見の払拭やイメージ向上)が述べられています。

 第4章では、収集現場で進む業務委託の現状と課題について取り上げ、民間清掃会社の作業員へのインタビューからは多様な働き方のニーズを満たしているものの、業務のブラックボックス化が進み、現場のノウハウが継承されなくなるなど、行政サービスの低下につながる問題点があると指摘しています。そして第5章では、厳しい財政状況の中で進む地方行政改革と委託化の流れの中で、現業の清掃職員が持つ地域情報の価値を行政の資産ととらえ、他部門(福祉やまちづくり等)との協力・連携による行政サービスの向上といった可能性を提案しています。

 大学の現場にも示唆に富むような内容の本書を著した著者は、同志社大学の事務職員として働きながら同大学の大学院総合政策科学研究科に通い、43歳で博士号を取得して研究者に転進した方でした。現場重視や業務委託に対する問題意識は、大学職員としての経験も背景にあったようで、その点でもなるほどと思いました。

参考:東京新聞「【考える広場】ごみ収集からみる地方自治」(2018年10月27日)

(出光 直樹)

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イキイキ爺さんのおススメ

 最近、友人や知人から中学、高校、大学の受験の相談を受けたり、高校生向けの進学のためのパネルディスカッションに呼ばれたりします。ここで私が保護者や生徒たちに伝えるのは、子供の未来をどう考えるか?自分はどんな大人になりたいのか?を、イメージしましょうということです。

 まずは、現状の話です。「2017年の日本人の平均寿命は女性が87.26歳、男性が81.09歳で、いずれも過去最高を更新した」と2018年7月20日に厚生労働省が発表しました。一方、企業の定年退職は60歳〜65歳になっています。ザックリいうと、定年後約20年は生きるということになります。今までは超進学校に入学して、塾や予備校に通ってブランド大学に入学して、一流企業に勤めれば幸せなことだと思わされていたはずです。しかし、現実はメガバンクや保険会社に入社しても、50歳で出向に出されて定年を迎え、家族からぬれ落ち葉と言われるのが本当に幸せなのかと思うのです。先日、近所にステーキ屋さんが開店しました。ランチで1500円〜3000円と割高な感じのお店にいたお客さんは、明らかに建設業に携わっているような作業着の方々が多かったのです。彼らはサラリーマンより元気がいいなと感じました。思えば、その方々は大学に行かなかったかもしれないし、中卒の方もいたかもしれません。でも、イキイキとして楽しそうに食事をしていたのは事実です。ですから、私は保護者や生徒に「あなたの周りのお年寄りの中で、元気でイキイキしている人と話をしてください、そしてその方々から何の仕事をしているのか、していたのか、を聞いてください」と要求するのです。

 人生80年時代には、今までの常識は破られています。楽しい人生を先人から学び取りましょう。勉強して、ブランド大学に入学して、人気の職業に就職したとしても、早ければ50歳、長くとも65歳までで素敵な時間が止まります。定年後、約20年の間に必要なことはなんだろうとイメージしてみてください。それが現在の進学選びの答えに繋がると思います。

 最近は学歴よりも資格重視の社会に変わろうとしています。仕事をするのではなく、仕事を持つことの意味を分かっていただきたい。70歳を過ぎても、人から必要とされる人を目指した方が、確実に「生きている」と実感があるはずです。まずは身近で「元気でイキイキしているお年寄り」を探して、一緒に食事でもいかがですか。それが出来たら、この話の半分は終わりです。

(秋草 誠)

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2018年12月04日

『受験と進学の新常識:いま変わりつつある12の現実』


  おおた としまさ 著 新潮新書(2018/10)
序章 小・中・高のどこで受験すべきか
第1章 勢いがあるのはどんな高校か?
第2章 大学受験の塾・予備校選びの注意点
第3章 最難関大学への“王道”あり
第4章 9歳までの“最強”学習法
第5章 難関化する公立中高一貫校
第6章 中学入試が多様化している
第7章 私立大学付属校が人気になる理由
第8章 いま見直される男子校・女子校の教育
第9章 地方では公立高校が強い
第10章 受験エリートでなくても医師になる方法
第11章 海外大学受験の実際
第12章 インターナショナルスクールにご用心
終章 大学入試改革の行方

 リクルートから独立後、「育児・教育ジャーナリスト」として育児誌・教育誌への寄稿や多くの書籍を著している著者が、2020年の大学入試改革をひかえた我が国の受験事情について、丹念な取材の成果を書き下ろした一冊です。

 序章では、小学校・中学校・高等学校の各段階での受験について、日本の受験・進学システムの特徴を俯瞰した上で、費用や子供の向き不向きの面など、メリットとデメリットの見取り図が示されています。第1〜第4章は最難関大学進学において躍進する高校や進学塾・予備校をめぐる事情、第5〜第9章は価値観の多様化する中学入試から高校にかけての様相について、第10〜第12章では従来の我が国の受験・進学秩序とは違う世界での実態が、描かれています。そして終章は、今まさに右往左往している2020年からの大学入試改革について、その混迷した議論の経緯が良くまとめられています。

 なお、本書が扱う受験と進学の世界は、最難関から中堅大学くらいのそれではあります。私のようにまさにその層の受験生を対象にしている方もいれば、やはりほとんど重ならない機関の方もおられるかもしれませんが、本書を読まれれば、著者が受験や進学についての唯一の正解を提示しようとしているのではなく、当事者である子供たちが、納得した道を選べるような道標を示そうという思いが伝わってくるでしょう。

 本書の中の言葉ではありませんが、著者が最も伝えたいことは、他の媒体で書いている以下の言葉に集約されていると思います。
“教育における選択では、「何を選択したか」よりも「なぜそれを選択するのかを説明できること」、そして「選択したあとにそれを良い選択にする努力を怠らないこと」が大事である。”

 我々教育に関わるものは、そうした“良い選択にする努力”をサポートする役割を担っていることを、肝に命じたいと思います。

(出光 直樹)

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年下の師匠のススメ

 勉強会や研修会などで多くの職員の方々と話をすると、「うちのトップは内部のことを知らない」とか「学生のことを考えていない」という話をよく耳にします。話をよく聞いてみると2代目、3代目の方々がトップに立つとそう言われているように感じます。そのトップの方が悪いわけでないのはよく知っていますが、教職員や学生に対する自分の思いを上手く教職員に伝えられていないのが一つの原因ではないかと感じます。そういったトップの方々に限って、定員が未達なのに外の仕事を多く抱えてしまう傾向にあると言えます。例えば、文部科学省、所属協会、地域の教育にかかわる仕事などの役員になってしまっている方が多いのです。

 その仕事が悪いわけではありませんが、教職員から見ると学校の仕事ではなく、外の仕事ばかりして、いい顔しているという不満が聞こえてくるのです。「定員割れを起こしているのに何を考えているのか」とか「学生たちの居場所作りを考えたいのに何もしてくれない」というような、不満がたまっているのです。この話に該当するトップの方を見て、その方々の心境を私なりに考えてみました。「自分はそんなに実力もないのにどうしよう」「こんなに大きな組織に立ってどのように運営すればいいのだろう」というのが、本音ではないかと思います。あくまでも私見なので、そうではないかもしれませんが、それはこの FMICS ということで、お許しください。

 そういう方が、自分の中でバランスを保つためにする行動は、自らの言動で示すのではなくある権威を担いだほうが、組織のみんなが認めてくれるはずだという錯覚に陥っているように見えます。文部科学省の委員だとか、協会の役員だとかが自分のバランスを保つための唯一のカタチだと思っているように感じます。当然、その学校の教職員たちは、表では凄いですね〜とゴマをすり、これが重なってくると本音で話してくれる辛口の人たちが疎ましくなってきます。ここまでくると、「裸の王様」の出来上がりです。その組織では、誰もが怖くて何も言えなくなります。挙句には学生のニーズも確かめずに、方向違いの学校運営が始まります。こうなるともうボロボロですね。学生募集がなぜ上手くいかないのかを内部のせいにして、何も提案しないまま民間の広報マンを採用したり担当者を変えたりという組織に変わっていきます。すでにここまでくると学校に対する愛着など薄れてきますので、自分の身の振り方だけを考えるようになります。イエスマンばかりを揃えて、外部の方に頼ってしまうという始末です。まあ、こうならないためにも他大学の教職員とネットワークを拡げて、年下の師匠を持つことをお勧めします。

(秋草 誠)

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