2018年07月27日

国際バカロレア入試の新展開<後編>

<中編から>

 横浜市立大学医学部医学科の国際バカロレア入試について、私が具体的な検討に着手したのは昨2017年の6月頃からでした。メインの学会としてほぼ欠かさず参加している大学教育学会の大会が広島大学で開催された機会を捉え、以前から気になっていた岡山大学まで足を延ばしてみたところ、副学長・アドミッションズセンター長の田原誠先生がご対応くださり、同大学の国際バカロレア入試について詳しくお話しを伺う事が出来たのです。

 またちょうどその頃、本学医学部医学科の中でも国際バカロレアについてのFD講演会を企画する動きがあり、本学の担当者から相談を受けた私が、田原先生を訪問した際にその講師を打診したところご快諾いただき、同年9月に本学にお招きしてのFD講演会が実現しました。しかも同じ9月には、岡山大学でも「国際バカロレア修了生の国内大学進学と今後の展望について」と題した大学教育再生加速プログラム(AP)採択事業シンポジウムが行われ、これには私がシンポジストの1人として招かれて、横浜市立大学の事例を報告する事となりました。

 こうして一気に環境が整いだした中で、医学部医学科における国際バカロレア入試の具体的な制度設計に着手しました。その際、国際バカロレア資格の成績等の出願要件については、実績のある岡山大学のものと全く同じにすることとしたのは、先に述べたとおりです。ただし、その要件をクリアした出願者の中から、合格者を選抜する方法については、岡山大学のように書類審査(基本的にIBDPの成績や出身校からの評価書、自己推薦書等)で行うのではなく、本学の医学部医学科で培ってきたMMI(Multiple Mini Interview)方式の面接で行うことにしたのです。

 2017年9月〜11月の小欄で紹介しましたように、このMMI方式の面接は、2016年度入試より導入した特別推薦入試で取り入れたもので、受験生は観点別の5つの面接室(1面接室あたり10分程度)を巡り、それぞれ独立して審査を受けるものです。実施初年度からこの面接方式での手応え(優秀な学生を引き付けて評価できる)を、とても強く感じていましたが、今年の3月には、この面接を経て入学した最初の学生達が医学の専門教育が始まった2年生を終えた段階で、やはり入学後一貫して一般選抜入学者よりも高い成績を修めている事が明らかとなりました。

 このようなエビデンスも弾みになり、本学の医学部医学科の国際バカロレア入試は、先行する他大学での実践と自大学での実践の成果を共に取り入れて誕生しました。この新しい入試に、どのような志願者が応募してきてくれるのか、とても楽しみにしています。

(出光 直樹)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:出光 直樹
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言

大学に主体性は必要なのか

 「高等教育に関するアンケート結果」によると、企業が求める学生の資質の第1位は主体性・実行力だそうです。RECRUITが発行している『Career Guidance』7月10日発行vol.423別冊付録に、企業が求める主体性について載っていました。企業の人材採用コンサルティングを手がける株式会社人材研究所代表取締役社長の曽和利光氏は、企業が求める主体性は2つのタイプに分かれるといいます。
一つは、環境や組織が求めるものを自らくみ取って、実行できる力のことです。<中略> もう一つは、外部の環境や既存のルールにとらわれず、自分のやりたいように内発的な動機で考え、行動するタイプ。いわばルールブレイカーです。

 曽和氏は“主体性”のイメージをAからDの4つに分類していました。Aタイプは、自ら変革を起こすルールブレイカー。Bタイプは、相手のニーズをくみ取り、自ら行動を起こす。Cタイプは、指示に従って適切に行動できる。Dタイプは、指示をされても適切に行動できない。AとBの二つが“主体的”があると評価される。Aタイプは個人の資質に負うところが大きく、BタイプとCタイプは、教育によって伸ばせるといっています。

 上記のタイプを、私が出会った大学職員に当てはめてみると、Aタイプの人は、若干いると思いますが、大学の組織からはみ出しているように感じます。Bタイプの人は、主体性を持って行動しているように感じますが、多数とはいえません。Cタイプの人が圧倒的に多く、この中から組織のリーダーも生まれているような気がしています。曽和氏の4つのタイプに加えて、Dの下のEタイプもいます。Eタイプは、指示を出されても行動しようともしない人達です。

 俗にいうパレートの法則2:6:2の下の2割です。企業ではEタイプが少ないのかもしれませんが、大学にはEタイプが多くいるような気がします。(それでも法則通り2割程度)曽和氏はCタイプのようなタイプをAタイプに育てようとしても無理が生じやすい。それよりも、CタイプをBタイプに育てることが教育に求められる役割だといっていますが、実際にCタイプをBタイプに育てられる教育が大学にあるのか、ないのか、ある大学があるかもしれませんが多くの大学にはないでしょう。そういえるのは、大学の組織がそうなっていないからです。CタイプからBタイプに変われる人材育成が、必要なことは理解できますが、それをどうするのかを大学は考えていないと思います。まさに大学の組織に「隗より始めよ」といいたくなりますね。
(秋草 誠)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:秋草 誠
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言

2018年07月13日

国際バカロレア入試の新展開<中編>

<前編から>

 医学部医学科で何らかの入試を導入するとなると、難関のレベルに相応しい学力担保の仕組みが必要となります。そこで、2019年度の入学生より導入する横浜市立大学医学部医学科の国際バカロレア入試では、国際バカロレア資格(IBDP)において、次の(1)〜(3)のいずれにも該当する(見込の)者という要件を設けました。

(1) 全体の成績評価が39以上
(2) 言語Aを日本語(HL・SLのいずれでも可)により履修し成績評価4以上、または言語Bを日本語(HL)により履修し成績評価6以上
(3) 物理、化学、生物から2科目および数学の3科目を履修し、うち1科目はHL成績評価4以上、他の2科目はSL成績評価5以上又はHL成績評価3以上

 国際教養学部・国際商学部・理学部・データサイエンス学部の国際バカロレア入試では、IBDPは(基本的に全体成績45点満点中の24点以上で)取得(見込み)であれば良く、履修科目の要件も全く設けていないのに対して、かなり高水準なものです。このレベルのIB生であれば、北米等の大学から奨学金付きの合格がもらえ、日本の普通の大学には見向きもしないと言われるレベルですが、この要件は、岡山大学医学部医学科の国際バカロレア入試の出願要件と同じで、それをそのまま用いることにしたのです。

 岡山大学は、2012年度に国立大学で最初に国際バカロレア入試を4つの学部で導入し、2015年度にはすべての学部で実施するに至っています。その特色は、国際バカロレア教育の質とIBDPの成績を高く評価し、大学独自の筆記試験は課さず、基本的にIBDPの成績や出身校からの評価書、自己推薦書等の書類審査のみで合否を決めている点にあります。

 岡山大学でも医学部医学科や教育学部などの対人専門職養成の学部では面接も行っていますが、あくまでも総合評価の一部として位置づけられ、基本的にはIB生が受けてきた国際バカロレア教育の評価を中心とする書類審査の枠組みで合否を決定しています。

 『朝日新聞GLOBE+』2018年6月30日付の記事「国立大初のバカロレア入試は岡山大学 狙いは『コミュニケーション力』」などで詳しく紹介されていますが、岡山大学が国際バカロレアを高く評価する入試を導入した背景には、現在、副学長・アドミッションセンター長の田原誠先生(専門は植物遺伝学)が中心になり、2009年頃から国内外のIB認定校を精力的に訪問調査するとともに、学内での説明会や議論を重ねて来たことにありました。

<後編へ>
(出光 直樹)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:出光 直樹
posted by fmics at 00:10 | TrackBack(0) | 巻頭言

2018年07月11日

高大連携の先は「短」

 定員割れしていて厳しいと数年前までこぼしていた大学職員の担当者の方に、お会いすると必ず聞く質問があります。今年の入試状況と、併設短大がある大学は定員充足率の経緯などです。ある大学では、一般入試の入学者の中に4ランクくらい上の入学者がいてビックリしたとか。加えて、今年の短大入学者の保護者から「併設大学へ編入するための成績は、どれくらいなのか」という質問が多く寄せられていますという話でした。

 この話を聞いて思い出したのが、都内の大学で北海道の空知郡に短大を設置している大学の担当者と話した時のことです。空知郡の三笠市は私の出生地でもあります。今や市の人口約9,000人という人口減少のスピードをよく知っていて、その地域にある大学の募集が厳しいこともよくわかっていました。その方と話したのは、5〜6年くらい前の話だったと思いますが、短大の募集が厳しくて大変だから閉鎖も視野に入れなくてはならないというような話でした。

 現状はどうなっているのか。当該地域の大学併設短大の入学者の推移を調べてみました。T短大は定員230名、入学者は平成30年217名、平成29年194名、平成28年186名。K短大は定員225名、入学者は平成30年244名、平成29年262名、平成28年205名でした。驚きの数字でした。2校は札幌から旭川に向かう途中の約100キロの場所に位置しています。こういう場所にある短大が定員オーバーや若干割れで収まる現象が生まれているのです。

 恐ろしいもので、大学シャンパンタワー現象の波は、北海道の短大にまでいきわたったっているのです。この短大に入学した学生たちの中には、全国から編入狙いで北海道まで行った人も多数いると思います。この現象を感じ取り、数年後に起きることは予測できるはずです。来年の大学入試は定員充足率100%を目指し、補欠合格でスレスレの受け入れをするはずです。入学時は100%だったのが3年も経つと中退等で、大目に見ても90%強になるでしょう。その結果、大学の収入減が確実に起きるということになります。その先に大学が考えるのはきっと、今まで以上に編入の受け入れを多くするべきだということです。きっと短大や専門学校から多くの卒業生が、編入で大学に入学する現象が起きることになります。

 さあ、大学の入試担当者みなさん、定員が満たされたとにんまりしていないで、3年後の自大学のために全国で定員割れに苦しんでいる短大に営業に行きましょうよ。高大連携もいいですが、これからは短・大連携ですよ。
(秋草 誠)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:秋草 誠
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言

2018年06月06日

国際バカロレア入試の新展開<前編>

 横浜市立大学では、2014年度入試に国際総合科学部(国際教養学系・国際都市学系・経営科学系・理学系)にて国際バカロレア資格を有する者を対象とする「国際バカロレア入試」を導入し、この春、この入試制度での最初の入学者が無事に卒業しました。

 この入試制度については2014年7月2014年11月の小欄でも紹介したとおり、分野ごとに同一の筆記試験問題と面接で選抜を行っていた海外帰国生・外国人留学生・社会人対象の特別入試の枠組みに、国際バカロレア資格を有する(見込み)の者を対象とする出願区分を追加したものであり、とりたてて新たな選考方法や試験問題を開発したわけではありません。また既存の海外帰国生入試の入学者の中には、海外のIB認定校で学び国際バカロレア取得を修得した者も、極少数ではありましたが含まれていました。

 ただこの制度を開始するまでは、日本国内のIB認定校に学んで国際バカロレア資格を取得した者は、在籍校が1条校であれインターナショナルスクールであれ、この特別入試の枠組みの対象ではなく、一般選抜やAO入試などで受験することは当然可能ではあるものの、それらの入試制度と国際バカロレア資格取得(とてもハードな世界統一の最終試験がある)との両立の難しさなどから、実際にそうした入試制度を受験する者は、ほぼ皆無でありました。

 2014年度に「国際バカロレア入試」という枠組みを掲げてからは、狙い通りに日本国内で国際バカロレア資格を修得した者が応募するようになり、以来今春2018年度までの国際バカロレア入試での入学者総計11名の大多数は、日本国内のIB認定校(全て1条校)の出身者となりました。年あたりの入学者数はまだ2〜3名程度ですが、2015年の統計で日本国内での国際バカロレア資格取得者数382人(うち日本人258人)なので、それでも日本の大学としては比較的多数の人数を受け入れていることになります。

 なお本学には、国際総合科学部(2019年度から国際教養学部・国際商学部・理学部に改組予定)の他に、古くからの医学部(医学科・看護学科)、そして2018年度新設のデータサイエンス学部があります。

 データサイエンス学部についても国際総合科学部と同様な仕組みによる国際バカロレア入試を実施しましたが、医学部では単純に活用できる一般選抜以外の選抜の仕組みがなかったため、国際バカロレア入試は実施していませんでした。

 しかし2019年度より、医学部医学科でも国際バカロレア入試を導入することになりました。それに際しては、他大学の方法を大いに参考にしながら、難関の医学部医学科に相応しい選抜の仕組みを考案しました。

<中編へ>
(出光 直樹)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:出光 直樹
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言

自信が無くなる入試

 最近、高校訪問に出向くと多くの進路の先生方から、今年度の大学入試が厳しかったことを伝えられます。進路指導をしている先生方の中には、大学定員の厳格化が原因で起きた結果だったと気づいていない先生方も多くいます。大学の入試担当の職員と話をすると、あるブランド大学では、例年なら合格を出している受験者の歩留まりを考慮しつつ、6割を補欠合格にしたという話もありました。一番衝撃的だった話は、ずっと定員割れが続いていた大学が、入学定員の140%入学してしまったと慌てていた話でした。この担当者曰く、AO入試と指定校入試は前年並みだったので、一般入試では歩留まりを見越して、ほぼ全員に合格を出したら、ほとんどの受験者が手続きをしてくれた。こんなことは、今までなかったので補助金がカットされるのではないかと焦ったというのです。その担当者に来年の方針を伺うと、来年度は大学始まって以来、初めて補欠合格も視野に入れるというのです。昨年4月FMICSに書いたシャンパンタワー現象が、より下へ下へと流れ落ちた結果だったといえます。こんな話を訪問先の先生方に伝えると、来年はどうなるのでしょうかと質問をされるので、文部科学省の方向性を説明しています。

 「文科省は2016年度から2018年度にかけての定員超過による私立大学等経常費補助金不交付基準の段階的引き下げについて通知する際、2019年度以降については『1.0倍を超える入学者数に応じて学生経費相当額を減額』『定員超過率を0.95〜1.0倍にした大学に補助金を上乗せ』という方向性を示した。」というわけで、来年度は各大学100%を目指すので、首都圏にある多くの大学の入試は、今年以上に厳しくなるでしょうと伝えています。

 最も印象に残っているのは、高大連携の話で埼玉県の校長先生と教頭先生に上記の話をした時でした。この高校は偏差値50くらいの中堅校ですが、近年、四大進学者を増やそうと方針を決め、一般受験で実績をあげると宣言していた高校です。この先生方が私の話を聞いて、ここ数年はAO入試と指定校入試で受験させた方が生徒にとっていいですね。と念を押されたので、大学入試改革もしっかりと方向性が見えてこない状況も説明しつつ、AO入試と指定校推薦入試で受験指導した方が良いとお勧めしました。

 それにしても、今の学生は自信がない自信がないといいつつ、入学段階から自信が失せる補欠合格で入学させて、その後学生のメンタルはどうなるのでしょうか。どうせ自分は補欠だと逃げる学生が増えそうな、いやな予感がします。

 気になるのは、シャンパンタワーの零れ落ちる先の大学は、どの地域まで波及するのか今後関心の高いテーマです。

(秋草 誠)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:秋草 誠
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言

2018年05月01日

日本高等教育学会と大学教育学会

 来る6月前半の週末、我々大学人に縁の深い学会の大会が、首都圏で相次いで開催されます。

■■日本高等教育学会 第21回大会■■
2018年6月2日(土)〜3日(日)
会場:桜美林大学 町田キャンパス
参加費:6000円(会員・非会員問わず)
※5/14(月)までにWebで事前申込&クレジット決済すると5000円に割引。
※3日(日)午後は無料の公開シンポジウム。
「大学経営人材のプロフェッショナル化をどう進めるか−SD・教職協働の制度化を踏まえて−」

■■大学教育学会 第40回大会■■
2018年6月9日(土)〜10日(日)
会場:筑波大学 筑波キャンパス
参加費:6000円(会員・非会員問わず)
※5/11(金)までにWebで事前申込&5/18(金)までに入金すると5000円に割引。
※学生割引あり(社会人学生・大学院生も、学生としての所属で登録すれば学生料金で参加可能です)

 いずれの学会の大会も、会員による自由研究発表や、学会で設定したシンポジウムなどが行われますが、大学教育学会ではそれに加えて、参加者もインタラクティブに議論する「ラウンドテーブル」や「ワークショップ」といった企画も行われます。

 両学会とも、大学やその営みを研究対象とする学会でありますが、シンポジウムや自由研究発表のテーマを見ると、重なる部分もあるものの、その成り立ちを反映した違いも見て取れるでしょう。

 日本高等教育学会は、1997年7月に高等教育の研究者が中心となって発足したのに対して、大学教育学会は、元々1979年12月に一般教育担当の教員や組織が中心となって一般教育学会として発足し、1997年6月に大学教育学会と改称してからも、教育学の研究者よりも文系理系の様々な分野の大学教員が多く集まっています。

 また近年は、両学会ともに事務系の職員も入会していますが、日本高等教育学会では政策動向に関心のある職員や政府機関の職員が、大学教育学会には学務系の業務に関わる職員が多いように見受けられます。

 2週連続で両方参加するとなるとなかなかの出費と時間的負担にはなりますが、大学の様々な課題や取り組みについての情報が一堂に集まる機会です。会員にならなくとも大会に参加可能ですので、お近くの皆さまは、ぜひ足を運んでみてください。もちろん私は両方とも参加です。

(出光 直樹)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:出光 直樹
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言

学歴フィルター対策

 3/12(月)毎日新聞のネットに「<就活>ネットで暴露された「学歴フィルター」」というタイトルでニュースが流れました。『学生から、「企業の採用ページを見て、何月何日の何時から説明会の申し込みを受け付けますとあったので、その時間にサイトにアクセスしたところ全部満席でした。どうなっているのでしょうか」その質問に続けて、「うちの大学はフィルターではねられているのではないですか」と。キャリアセンターの職員が企業の採用担当者に尋ねると「フィルターなどかけていません」という答えが返ってくる。その言葉を信じて学生に伝えるしかない。ところが最近、ある私大の女子学生が企業の説明会に申し込んだところ「満席」の表示が出たのに、「早稲田大学の学生」としてエントリーしたら、「空席」の表示が出たというのだ。かつては「指定校」制度というものがあったとも言われる。真偽は不明だが、旧帝大や早慶、上智、理科大、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)までは受け付けるが、それより偏差値の低い大学からの応募は受け付けない、というものである』

 このニュースで気になったのは、果たしてフィルターが存在しているのかという議論より、大学のキャリアセンター担当者の対応です。企業に尋ねても、フィルターが「ある」とはいうはずがありません。それを鵜呑みにして、学生に伝えてしまうことに問題があると感じています。「ある」のか「ないのか」よりも、卒業生の当該企業への実績をしっかりと伝えれば、学生は「ある」ことに気づくはずです。

 たとえば、上記の指定校は少し幅が狭いですがもう少し拡大していたとしても、業種にもよると思いますが7〜8割の私大はフィルターをかけられていると考えてもいいのではないでしょうか。だとしたら、フィルターをかけられている大学の立ち位置はどうなりますか。ほとんどの大学は学生募集時には、就職率を謳っているはずです。もちろんフィルターの話など一切なしです。これを「おかしいと」という話をするつもりはありません。上位の大学に有利な基準や評価で比較されている現状から抜け出す策を考えればいいと思います。その7〜8割のいくつかの大学と連携して、連携した大学に有利な基準や評価を見つけて発信することも現状を打破する策としては、有効だと思います。なによりも、就職率が高いという撒餌を使って募集した学生たちを、社会で通用する基準や評価をつけて、社会に送り出す大学という立ち位置が見つけられたら、7〜8割大学から抜け出せるのではないでしょうか。学生は一生○○大学卒業という看板を背負うことになります。職員はこの看板のブランドをいかにあげるか、考えたいものですね。

(秋草 誠)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:秋草 誠
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言

2018年04月03日

「高大接続改革」の忘れもの<後編>

<中編から>

 集団準拠型のテストと目標準拠型のテスト。入学者選抜制度を考える際には、そこで用いる試験がどの様な性格を有する(有しなくてはならない)ものなのかを、理解する必要があります。

 大学入試センター試験は、“高等学校における一般的かつ基礎的な学習の達成の程度を評価する”ことも目的として、目標準拠型の性格も併せ持ってはいるものの、基本的には利用大学に対して“公平・公正な選抜資料”を提供する為のものであり、各大学での個別試験と組み合わされるにしても、選抜のための集団準拠型の試験としての機能が求められているのです。

 現行のセンター試験であれ、それに代わる「大学入学共通テスト」であれ、はたまた個別大学の試験であれ、1月〜3月にかけての一般選抜の一環で行われる試験は、それが機能するとすれば、一定の受験倍率のもとで受験者の中から募集人員に応じた合格者を選別するための集団準拠型の性格を、基本的には持たざるを得ないのです。

 一方、各種の検定試験など、目標準拠型の試験も入学者選抜のプロセスに組み込まれるようになってきていますが、それは選抜に“程よく”結びつくことによって機能します。例えば、部分的な加点や一部の科目のみなし満点に用いたり、出願要件に用いるなどの方法です。

 なお、多くの大学で集団準拠型の選抜が機能せず、高等学校における一般的かつ基礎的な学習の達成が担保されていないどころか、学習への意欲すら不十分な学生を入学させざるを得ない事態も進行しているのは、承知の通りです。

 高等学校における基礎的教科・科目の普遍的学習を担保は、大学のみならず専門学校等も含む広い意味での高等教育機関への接続の基盤であり、また高卒で就職し社会に出る者に対しても、責任をもって及ぶべきものです。しかし選抜機能を求められる大学入試の集団準拠型試験でそれを実現していく事は、もはや不可能です。

 それには大学入試とは別個の、しかし大学の入学者選抜や就職選考にも程よく結びついた、全国共通の目標準拠型の試験として、高校在学中のある程度の期間にわたって複数回実施し、受験者した生徒や高校へのフィードバックも機能することによってでなければ、その実行性を担保することは出来ないでしょう。

 しかし今回新たに導入されることとなった「高校生のための学びの基礎診断」は、全国共通の試験ではなく、一定の要件を満たした民間試験等を認定するというものであり、喫緊の課題となっている高等学校における基礎的教科・科目の普遍的な学習の担保には、あまりにも不十分な仕組みです。今回の高大接続改革には、大きな忘れ物が残ったままと言わざるをえません。

(出光 直樹)

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:出光 直樹
posted by fmics at 18:04 | TrackBack(0) | 巻頭言

大学選び?=高額借金

 高校訪問やガイダンスの時に進路指導の先生方から、奨学金について生徒や保護者に対して説明する時には「奨学金は借金だ」と必ず伝えていただきたいと強く要望されます。生徒も保護者の中にも、奨学金は給付されるものだと思い込んでいる方がいるからだというのです。当たり前だと思っていることが、通じない状況になっているということです。多くの大学の方と退学理由の話をすると、必ず出てくるのは親が奨学金を使い込んで学費を納められない学生がいることです。学生は、学費は保護者が奨学金で支払ってくれていると思い、支払われていない事を説明すると驚いてしまう人もいるようです。これは、保護者が学生に学費を納めていないことを話していないことが原因です。本学もそうですが、年々このケースが増えていると感じています。それを数字で表してくれたのが「2018学研・進学情報3月号」です。一般社団法人NTSセーフティ家計総合研究所は、首都圏の大学や専門学校の来春卒業生を対象に奨学金返還に関する意識調査を行いました。その結果は、「月額返還額を知らない学生が多くいることが分かった。月額返還額の認知については、「だいたい知っている」を含めて78%だったが、具体的な月額返還額を問うと「知らない」と無回答を合わせて31%」ということでした。

 奨学金返還に関するアンケート調査結果(調査日時は2017年10月26日〜11月13日)。「借入総額の認知」は、「知っている44%、だいたい知っている44%、知らない11%。「返還月額の認知」は、知っている30%、だいたい知っている48%、知らない21%」でした。

 なんだか親子で重要なお金の話をしない家庭が増えたようです。以前は、自分の家の状況を察して、進学するかしないかを決めていた生徒が多かったような気がしますが、中流社会の意識が広がった結果、なんとなく子供に家計の話が出来なくなっているのが原因の一つだと思います。今でも進学率の低い高校のガイダンスで、「うちはお金がないから、進学しません」という生徒がいる一方で、公立高校の方針で進学に力を入れている学校では、家庭状況が分からないので進学することを勧める学校が多くなってきたような気もします。ですから私は、保護者には必ず伝えます。進学して卒業するまでの交通費や食費などを考えると自宅から通っていても大体学費の7割〜8割くらいの金額がかかります。四大の学費が500万円だとすると350万円〜400万円くらいは覚悟ですよ。(学費と同額という人もいます。)合計するとザックリ900万円、短大の学費は250万円前後ですから、175万円〜200万円、合計で450万円くらいです。

 学費だけを借金するとしても、大学を卒業すると500万円、同じような環境の女性と結婚すると二人の借金は合わせて1,000万円、家が一軒なんとか建てられる程の金額です。ですから、高額商品を買うつもりで学校選びをして欲しいのです。

(秋草 誠)

 にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
タグ:秋草 誠
posted by fmics at 18:02 | TrackBack(0) | 巻頭言