昨今、「ハラスメント」や「コンプライアンス」「働き方改革」「インクルージョン」など様々なキーワードで象徴されるような「あらたな考え方や文化」の導入により、職場に変化が生じていることを実感している。そのような環境下で、一層留意しておきたい点は、やはり「他者との付き合い方」だ。これまで経験した人間関係の「トラブル」には、ある共通点がみられる。それは「あの人には、どうして分からないのだろう」という考えの「取り扱い方」である。
「自分」を基準として他人を評価してしまうことは、とかくありがちだ。自分にとって「当たり前のこと」を、相手も共有していると、つい思い込んでしまう。他人が、何を考え、信じようとも、公共の福祉に反しない限り、それは他人の自由だ。この自由は、憲法において条文で明示され、保障されている。学校で、憲法を暗記させられたように、私たちは「社会」で生きていく重要なルールについて、すでに教わっているはずだ。他者とのコミュニケーションにおいて、自分が他人の行動や考えに、違和感を覚えた時は、自分の基準によって否定してしまう前に「ふうん、そんな考えもあるのか」と、中立的な距離をとるのがちょうど良いのかもしれない。世の中には、自分の知らないことも沢山あるだろうし、他人の考えや行動の背後には、やんごとなき事情が潜んでいるのかもしれない。
また、ある程度年齢を重ねた人の考え方や行動を、外発的な力で変えるのは至難の業だ。周囲ができることは、示唆を与えることやきっかけ作りであろう。変えられるとすれば、それは自分の考え方や行動のみだ。重心を「他者」から「自分」に移し替えることによって、気持ちは楽になる。これは、アドラー心理学で言われる「課題の分離」という考え方である。「今、抱えているのは自分の課題なのか、他者の課題なのか」を確認することだ。
私たちは時代の変化への対処が遅れ、もしくは変化のスピードが早すぎて、職場で推進される「新しい考え方」に対する準備が、不十分なままなのかもしれない。例えば、「多様性」という考え方を職場で推進しようとすれば、メンバー同士がやがて軋轢を生じることは目に見えている。対話する機会を設けたり、研修を実施したりして、その「受け入れ方」や「活用」について、組織が円滑にまわるための方法を学んでおくことが必要だ。多様性を組織に取り入れる目的は、異なる視点や発想による「イノベーションの創出」だと言われる。しかし、事前の環境整備が不足していると、むしろ求心力が低下し、メンバー間の信頼関係が損なわれ、組織の基盤が揺らぐ懸念もあることを忘れてはならない。
(佐藤 琢磨)

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